トランプ政権の移民政策、中米の移民が一斉帰国、経緯
第二次トランプ政権発足以降の中米移民帰国の動きは、単なる強制送還の増加ではなく、制度改変、経済的圧力、帰国インセンティブの三位一体によって進んでいる。

第二次トランプ政権が発足した2025年1月以降、米国に滞在していた中米出身移民が相次いで帰国し始めている。この動きの背景には、政権の掲げる厳格な移民政策の復活と強化、既存の保護制度の縮小、強制送還と自主帰国を促す新たな仕組みの導入がある。中米諸国は長らく米国への移民依存を抱えてきたが、その構造が大きく揺らぎ始めている。
まず最大の契機となったのは、就任初日に署名された大統領令による移民規制の徹底である。この中には「迅速送還」の大幅な拡張が含まれており、国境を越えた不法入国者だけでなく、米国内に長期滞在していた者に対しても、簡略な手続きで送還を行える仕組みが整えられた。さらに、いわゆる聖域都市に対する連邦資金の停止措置や、不法滞在者への就労機会を徹底的に制限する方針が打ち出され、移民にとって米国での生活基盤は急速に脆弱化した。これにより、長年定住していた家庭ですら将来を悲観して自発的に帰国を選ぶケースが増加した。
次に大きな要因となったのが、TPS(一時保護資格)の見直しである。これまで中米諸国の治安悪化や自然災害を理由に付与されていたTPSは、多くの移民に合法的な滞在と就労を認めてきた。しかし政権は「母国の状況は改善した」との判断を示し、ホンジュラスやニカラグアなど複数国のTPSを段階的に終了させる方針を打ち出した。司法判断によって一部の打ち切りが差し止められたものの、制度の将来性が不透明になったことで、移民たちは強制送還を待つよりも自ら帰国する方が確実と考えるようになった。
また、第二次政権下では「自主帰国」を奨励する仕組みが制度化された。たとえば、帰国を希望する移民がスマートフォンアプリで出国申告を行い、米国政府がその費用を補助する仕組みが導入された。さらに、帰国完了を確認するとデビットカードで現金が支給される「退出ボーナス」制度も始まり、生活の不安を抱える移民にとって現実的な選択肢となった。これらのインセンティブ政策は、強制送還を待つよりも体面を保ちながら祖国に戻る動きを後押ししている。
強制送還の実施も並行して進んでいる。移民税関捜査局(ICE)は取り締まりを強化し、犯罪歴の有無にかかわらず不法滞在者を拘束するケースが増えた。特に、ギャングとの関与が疑われる移民を対象とした集団送還は象徴的であり、証拠が不十分な者まで国外退去処分を受けた例も報じられている。こうした厳格な措置は、中米出身の移民コミュニティ全体に「米国に居続けることは危険だ」という強い警告を与え、帰国決断を加速させた。
一方、中米各国も帰国者の受け入れに応じる体制を整え始めた。米国からの支援を背景に、ホンジュラスやエルサルバドルでは空港に専用の帰還者窓口を設置し、短期的な生活支援を提供する取り組みが拡大している。とくにエルサルバドルは国内に巨大な拘禁施設を持つことを利用し、米国から送還される犯罪容疑者の受け入れ先となることで政権間の交渉材料にしている。しかし受け入れ能力は限られており、帰国者が本国で直面する失業や治安不安は解決されていないのが現状である。
こうした流れに対して、米国内の人権団体や司法機関は一定の歯止めをかけている。未成年者の強制送還に関しては人道的観点から差し止め命令が出され、TPS終了措置にも司法判断が介入した。だが政権は立法・行政両面から圧力を維持しており、法廷闘争の結果にかかわらず「米国に長期的に居続けられる可能性は低い」との認識が移民の間に浸透している。
第二次トランプ政権発足以降の中米移民帰国の動きは、単なる強制送還の増加ではなく、制度改変、経済的圧力、帰国インセンティブの三位一体によって進んでいる。移民たちは米国内での生活が不安定化する中で、自主的に帰国を選ぶ者と、強制送還で帰国させられる者に二極化している。今後、中米各国の経済や治安が改善しなければ、帰国者が再び米国を目指す「リバウンド移民」の波も予想されるが、少なくとも現時点では、米国における移民政策の急激な締め付けが「一斉帰国」という現象を生み出しているのである。