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トランプ政権、エルサルバドルのギャング「バリオ18」を外国テロ組織に指定

バリオ18はエルサルバドルを中心に活動する巨大犯罪組織であり、マラスと呼ばれるギャング集団の一つである。
2025年3月16日/エルサルバドル、中部テコルカの刑務所(ロイター通信)

トランプ政権は23日、中米エルサルバドルなどに拠点を置くギャング「バリオ18」を外国テロ組織に指定した。

バリオ18はエルサルバドルを中心に活動する巨大犯罪組織であり、マラス(maras)と呼ばれるギャング集団の一つである。もともとは米ロサンゼルスで形成されたヒスパニック系ストリートギャングに起源を持ち、1980年代から1990年代にかけて米国で取り締まりを受けたメンバーが強制送還され、エルサルバドルを含む中米諸国に拡散したことで現在の組織が根付いた。最大のライバルは同じく米国発祥のギャング「MS-13(マラ・サルバトルチャ)」であり、両者は長年にわたり熾烈な抗争を繰り広げてきた。

バリオ18は内部分裂を経験しており、特に2000年代には「バリオ18・スルーニョス派」と「バリオ18・レボルシオナリオス派」の二派に分かれ、同じ組織内での抗争も発生した。この分裂は組織の弱体化をもたらすどころか、かえって暴力の激化と複雑化を招き、国内の治安状況をさらに悪化させた。

活動内容は麻薬取引、恐喝、誘拐、殺人など多岐にわたり、特に市民や零細事業者からの恐喝は深刻な社会問題となっている。エルサルバドルではバス運行業者がバリオ18からの脅迫や殺害に直面し、公共交通が麻痺する事態もしばしば報告されてきた。国連薬物犯罪事務所(UNODC)のデータによると、2015年時点でエルサルバドルは世界有数の殺人率を記録しており、その主因の一つがバリオ18とMS-13の抗争であった。

政府との関係も複雑である。2012年には当時の政権がMS-13とバリオ18の間で「休戦」を仲介し、殺人件数が一時的に減少した。しかしこの取り組みは不透明な取引や政治的思惑が絡んでいたと批判され、最終的に破綻した。その後、ギャングは再び勢力を拡大し、国家を揺るがす存在となった。

エルサルバドルのブケレ(Nayib Bukele)大統領は国内のギャングを「滅ぼす」と宣言し、ギャング構成員や関与を疑われる者を投獄。バリオ18とMS-13に大打撃を与えた。これによりエルサルバドルの犯罪率は急激に低下した一方、政府による人権侵害に批判が集まっている。

ルビオ(Maro Rubio)米国務長官は23日の声明で、「この指定はカルテルやギャングを解体し、米国国民の安全を確保するというトランプ政権の揺るぎない決意を改めて示すものである」と述べた。

ブケレ氏は2022年3月、ギャング関連の殺人事件が多発したことを受け、非常事態を宣言。刑法を改正するなどしてギャング掃討作戦を本格化させた。

それ以降に逮捕されたギャングまたはギャングと疑われる市民は9万人近くに達し、そのうち約1万人が証拠不十分で釈放された。

勾留中のギャングの90%が裁判を待っている状態だ。

非常事態令により、警察の権限は大幅に強化され、結社の自由や弁護人を選任する権利なども制限。警察は令状なしで家宅捜索を行ったり被疑者を拘束できるようになった。

また刑法改正により、ギャングに所属し逮捕された幹部の懲役刑は6年以上9年以下から「40年以上45年以下」、その他の構成員は3年以上5年以下から「20年以上30年以下」に引き上げられた。

ブケレ政権の掃討作戦により、国内のギャングはほぼ壊滅し、エルサルバドルは世界で最も危険な国から、中米で最も安全な国に豹変。昨年報告された殺人事件は214件で、2015年に記録した6600件の30分の1に激減した。

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