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焼き菓子作りが冬の癒しに、思いやつながりを形にできる

焼き上がったクッキーやマフィン、ブラウニーに注目が集まりがちだが、本当の魅力は生地をこね、材料を量り、混ぜ、焼き上げるそのプロセスそのものにある。
ケーキ作り(AP通信)

冬の寒さが増す季節。そんなとき、単なるお菓子作り以上の価値を持つ行為として、“ベーキング(焼き菓子づくり)”が注目されている。

焼き上がったクッキーやマフィン、ブラウニーに注目が集まりがちだが、本当の魅力は生地をこね、材料を量り、混ぜ、焼き上げるそのプロセスそのものにある。工程を丁寧に踏めば、必ず「おいしい結果」が得られるという確かな手応え、それは「まるでセラピー」のようだ。

例えば、ボストンのベーカリー経営者でありベーキング本の著者でもあるジョアンヌ・チャンさんは、「自分の手で作ったものを他人と分かち合い、その人たちが喜ぶ姿を見ることほど、自分が世界とつながっていると感じられるものはない」と語っている。クッキーやケーキ、パイをひとつひとつ届けることで、「世界を少しだけ甘くできる」。そんな思いを込めるという。

また、気分にムラがあるとき、“怒り”や“もやもや”をベーキングにぶつけることで気持ちを落ち着かせる「レイジ・ベイキング(rage baking)」という言葉もある。冷えた冬の空気の中、温かいキッチンと焼きたての香りは単なる嗜好品を超えて、心の安らぎや慰めになる。

さらに、パンやお菓子作りには化学や物理的な“変化”にも魅力がある。たとえば、バターの温度による挙動の違いや、卵白を泡立てることでたんぱく質の構造が変化する過程など。こうした工程を観察するのは、理系的な興味を持つ人々にとっても楽しい。それが一つの“没頭できる時間”となり、ストレスや日々の雑多さから離れるきっかけにもなる。

ベーキングはまた、家族や友人との思い出、伝統や季節のイベントと結びつくこともある。幼いころ母親や祖母と一緒に焼いたお菓子、秋のりんご狩り後のアップルパイ、クリスマス前の定番菓子。そうした“記憶の味”を再現することで、安心感や温かさを取り戻す人も少なくない。

さらに近年は、既存のレシピにとどまらず、新しい食材や調理法にも挑戦する人が増えている。たとえばラミネート生地でクロワッサン風に仕上げたり、中国や日本で親しまれる“湯種”の技法を使ってパンをふんわり仕上げたりと、試行錯誤の幅は広い。それは単なる“おうち時間の充実”ではなく、創造性や探求心を刺激し、手作りの喜びを深める行為でもある。

最後に、ベーキングによって生まれたお菓子を誰かと分かち合うことで、言葉では伝えにくい気持ち「ありがとう」「お疲れさま」「がんばれ」をやわらかく伝えられる。単なるデザート以上に、“思い”や“つながり”を形にできる。

冬の長い夜、オーブンの熱と甘い香りに包まれながら、小麦粉と砂糖、水と卵が“やさしい時間”へと変わる。ベーキングは、食べるためだけでなく、心をあたため、つながりを育み、そして再び明日へと送り出してくれる。そんな冬の“自分なりのセラピー”なのである。

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