トランプ第2次政権の「国内政策」現状と課題、裁判沙汰も 25年9月
トランプ第2次政権の国内政策は、その核に「強権的改革」と「保守主義的再構築」を据えている。
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Ⅰ.政策全体の方向性と共通傾向
トランプ氏は就任直後から大統領令や行政措置を多用して迅速に政策を推進している。そのスタイルは、制度よりも忠誠心や強権を重視し、既存制度・行政文化を大きく変えようとする特徴を帯びている。このような態度は、政治文化そのものに変化をもたらす可能性がある。
Ⅱ.主要政策分野別の現状と問題点
A. 経済・貿易・産業政策
関税政策
2025年4月5日、トランプ氏は国際的非常経済権限法(IEEPA)を用いて、全輸入品に10%の関税を課す大統領令を発出。さらに、貿易赤字が大きい国には追加関税を個別に設定することとした。これにより「MAGAnomics」と称される経済政策が強化された。経済状況と雇用
初期にはAI投資や関税前の輸入急増で一時的に好材料があったものの、労働市場には停滞が見られる。特に5月以降は月平均の雇用増が2万7000件と減少し、製造業でも雇用が縮小。「ジョブズ・リセッション」とも呼ばれる経済後退の兆しが明らかになった。さらに、関税政策は一部の業界に逆効果となり、高い対米関税による報復も懸念されている。政府による産業介入の強化
戦略産業の再生を目的として、連邦政府がインテルや米鋼鉄(U.S. Steel)の株主になるなど、政府資本を導入して国内製造業を支援する形に踏み込む動きがある。一部は防衛産業や希少資源サプライチェーンへの投資も視野に入れており、政府介入型の政策が拡大している。
B. 規制緩和・行政効率
規制撤廃の加速
環境やエネルギー、教育、住宅政策などで、200以上の規制を撤廃し、今後1年間で最大5兆ドルの企業負担軽減を想定。環境面では、2014年エンドンジャーメント・ファインディング(温室効果ガス規制根拠)の撤廃や紙ストロー使用義務の緩和などが主要な対象となった。DOGE(政府効率省)の設置と混乱
政府組織の効率化を担う「Department of Government Efficiency(DOGE)」を新設し、マスク氏をその管理者に任命。しかし、連邦予算の凍結や訴訟、司法介入を招くなど、行政や司法との対立を招いた。
C. 環境・エネルギー政策
パリ協定からの再脱退
2025年1月20日、トランプ氏は「国際環境協定優先の米国」を謳う行政命令を通じ、パリ協定などからの脱退を再び宣言。再生可能エネルギーへの制限
洋上風力発電の許認可を一時停止し、複数のプロジェクトへの資金提供を打ち切るなど、保守的なエネルギー政策へ舵を切っている。
D. 犯罪・治安・軍の国内使用
国家警備隊や軍の”国内”投入を強化
シカゴやニューオーリンズなど都市部で治安悪化を理由に州兵や軍を投入。1970年代の「ポッセ・コタトゥス法」に関する憲法上の問題も指摘されている。移民関連で軍・法曹の活用
移民審理の遅延を受け、国防省の軍法務官を移民判事として暫定配置。移民取締りを加速させているが、移民法の専門性に欠けるとの批判がある。DCなどでの強硬な治安対応
連邦警察や州兵を強化し、犯罪緩和を進める一方で、地方自治体との摩擦や、軍事化に対する懸念も広がっている。
E. 社会政策・ジェンダー政策
トランスジェンダー政策の大幅な後退
就任当日に「生物学的性(male/female)を厳格に定義する」行政命令(EO 14168)を発出し、性自認に基づく公文書の使用禁止、ジェンダー・アファーメイティブケア(性別適合医療)の連邦資金停止などを指示。さらに軍からのトランスの排除も進めたが、司法によって差し止められた例もある。中絶政策の制限強化
2025年1月24日に「ハイド修正条項の強制」行政命令(EO 14182)を出し、連邦資金による中絶サービスを禁止。公権力とDEIへの逆風
多様性、公平性、包摂(DEI)に関する政策を縮小・撤回し、人事判断においても女性やマイノリティの割合が高い部門に大幅な人員削減を指示するなど、白人男性中心の政策傾向が顕著になっている。
F. 保健・科学・公衆衛生
CDCやNIHへの打撃
CDCに関連する報告書の停止、MMWR(週刊疾病報告)の発表中止、NIHの間接経費制限などを実施。公衆衛生インフラが大きく縮小し、対感染症体制が弱体化している。HHSの人事とワクチン政策の混乱
RFK Jr.(ロバート・F・ケネディJr.)をHHS長官に任命し、ワクチンに対する陰謀論的な見解を支持するなど、科学的整合性が大きく揺らいでいる。
G. 行政改革・司法との対立
独立機関への介入強化
FCC、FEC、SECなどの独立機関を統制下に置く動きを進め、司法の関与や裁判官への不満を露わにすることで三権分立のバランスを揺るがしつつある。FEMAの解体計画
FEMA(連邦緊急事態管理庁)の廃止論が進行し、元長官は「災害対応の危機を招く」、と内部から反発して退任した。
H. 保守思想と国民・政界の反応
ナショナル・コンザバティズム(ナショコン)の盛り上がり
バンス副大統領やルビオ国務長官が象徴する「ナショコン」勢力は、移民規制・保護主義・行政強化を掲げるが、持続性や思想的統一に不安を抱えており、会議でもその限界が議論されている。司法やメディアとの対立が増加
連邦裁判所やメディアに対する批判や介入が増え、行政の強権的姿勢に対する懸念が広がっている。
Ⅲ.結論
トランプ第2次政権の国内政策は、その核に「強権的改革」と「保守主義的再構築」を据えている。行政命令を駆使し、規制緩和・関税政策・軍の国内展開・社会政策の転換・公衆衛生への介入など、多方面で急進的な動きを進めた。
短期的には、政策の迅速実行や既得権益への挑戦といった点で支持層からの評価がある一方で、経済雇用の鈍化や行政の混乱、民主主義システムへの懸念、科学的信頼性の低下、少数派の権利侵害、司法との対立など、多くの問題が顕在化している。
また、「ナショコン」を中心とする保守思想の強化は政権内で勢いを得ているが、その構造に依存する限り、トランプの存在に左右される脆弱さも見え隠れする。
したがって、最終的には「米国の政治文化と制度の長期的な変質を招く可能性が高く、政権交代後にも政策の余波が続くリスクが大きい」といえる。