さよならTikTok?
7月30日、トランプ大統領は記者団に対し、「私たちはTikTokを禁止するかもしれない」と語った。
二日後、FOXニュースの取材に応じたマイク・ポンペオ国務長官は、「中国共産党に接続されたソフトウェアがもたらす国家安全保障上のリスクに対処すべく、適切な措置が取られるだろう」と述べた。
トランプ政権は大人気の短編ビデオアプリ、TikTokを本当に禁止できるのか?
できる。まず、AppleとGoogleにオンラインストアから同アプリを消し去るよう命令する。
これは、TikTikの所有者である「Bytedance」を米商務省の輸出管理規則(EAR)、エンティティリストに追加し、アメリカの企業に対しアプリの使用禁止を命令すればよい。Huaweiに対し、Googleのアプリ提供を禁じた際も同様の戦術がとられた。
これにより、新規ユーザーはTikTokをダウンロードできなくなる。一方、既存ユーザーは通知を受信したり、更新プログラムをインストールできなくなるが、デバイス内にデータは残る。
既存ユーザーに対しては、AppleとGoogleの両方にある「キルスイッチ」機能を使用することで解決可能だ。これを起動すると、対象のアプリはブラックリストに登録され、起動できなくなる。
ただし、AppleとGoogleは、このような方法でユーザーのスマートフォンを制御したくないと考え、トランプ大統領やポンペオ国務長官の命令に反旗を翻すかもしれない。
両者が抵抗した時は、プランBの出番である。ローカルのインターネットサービスプロバイダに対し、TikTokへのアクセスをブロックするよう強制すれば、問題は一瞬で解決する。
プランBを実行すると、TikTokのビデオがWebサイト経由で表示されなくなる。つまり、ホームページなどに添付された同アプリの映像も再生できなくなるのだ。
インド政府は、TikTokや他の中国アプリをプランBでシャットダウンした。なお、この措置を実行すると、仮想プライベートネットワーク(VPN)を使っても、ブロックを回避することはできない。
トランプ大統領がこれらの命令をどのように執行するかは不明である。
なお、それほど厳格でないアプローチも存在する。「連邦職員のみTikTokのインストールを禁止すればよい」という意見も出ている。
上院議会はこのアイデアに賛成しており、現在検討を行っている最中だという。ただし、このプランは諸刃の剣になる可能性を秘めている。
「TikTokには害がある」と議会は認めている。だからこそ、重要な情報を取り扱う連邦職員のみインストールを禁止するのである。では、国民の個人情報などが中国に吸い上げられても良いのか?
中国はコロナウイルスの震源地であり、さらに香港から自由を奪った。「そんな国に対し、中途半端な態度をとるとは何事か!」と一部の有権者は腹を立てるかもしれない。
トランプ大統領は中国に対する強硬姿勢を”少なくとも”大統領選挙終了まではとり続けるだろう。民主党もやり方は違えど同じである。TikTokを中途半端な形で残してしまえば、後々遺恨を残す可能性もある。
さらなる攻撃手段、プランDも存在する。財務省が議長を務める対外投資委員会(CFIUS)は、国家安全保障上のリスクをもたらす可能性のある「乗っ取りアプリ」に対し、停止を命令できる。
中国の新興企業が所有していた「Musical.ly」はTikTokと連動しており、両社の買収劇を乗っ取りと見なせば、CFIUSはBytedanceに対し、アメリカ国内でのサービス停止を命じることが可能と思われる。
成功報酬
8月3日、トランプ大統領はマイクロソフト社がTikTokを買収した場合、「政府から成功報酬を支払う」と発言した。
トランプ大統領は記者団に対し、「マイクロソフト社のサティア・ナデラCEOに購入価格の”相当な部分”を支払うと言った。また、契約に至らなかった場合は、9月15日からアメリカ国内でのTikTok使用を禁止する」と語った。
トランプ大統領の恐るべき圧力を受けたByteDanceは、アメリカ事業の売却を迫られている。
米国財務省への支払い要求は異例中の異例どころか、前例がない。買収契約提携後、規制当局の承認を受け、マイクロソフト社が支払った金額の一部を政府が肩代わりするのである。
法律事務所、DLA Piperのニコラス・クライン氏はBBCの取材に対し、「政府に民間企業が支払った契約額を肩代わりする権限などないし、あり得ない」と切り捨てた。
国営のチャイナ・デイリー紙は8月4日の社説で、「当局は中国技術の盗難を受け入れないだろう。トランプ政権がTikTokに対する違法な攻撃を行えば、我々はそれに強く反発し、しかるべき対抗手段をとる」と警告した。
マサチューセッツ工科大学、MITテクノロジーレビュー のシャーロット・ジー氏は、トランプ大統領のコメントを「驚くべきもの」と表現した。
ジー氏はBBCの取材に対し、「この手法はマフィアを連想させる。ByteDanceは圧力に屈し、マイクロソフト社に事業を売却せざるを得ない。しかし、裏ではアメリカ政府が糸を引き、必要な資金の一部をマイクロソフト社に提供する」
「先週、強大な力を手に入れたGAFAに対し、調査が行われたばかりである。しかし、トランプ大統領は同じテクノロジー企業であるマイクロソフト社の巨大化を容認している」と語った。
トランプ大統領のTikTok買収容認は、大きな前進と言える。なお、交渉の締め切り日は短く、大きなハードルになるだろう。
TikTokのアメリカ事業は、マイクロソフト社もしくはアメリカの企業が買収しない限り、9月15日でシャットダウンされる。なお、トランプ大統領の発言が実現すれば、取引に伴う費用の一部は米国財務省が肩代わりしなければならない。
ホワイトハウスの貿易アドバイザーを務めるピーター・ナバロ氏は、マイクロソフト社がTikTokのアメリカ事業を買収すれば、中国共産党の介入(データ流出)を防げると示唆した。
なお、マイクロソフト社が取得したTikTokという保有資産を将来売却できるか否かは不明である。
マイクロソフト社は公式ホームページに声明を発表。TikTok買収取引について、ナデラCEOとトランプ大統領との電話会議は確かに実施され、議論は続くとコメントした。
【TikTokタイムライン】
2012年3月:Bytedance設立。中国ユーザー向けのアプリ、Neihan Duanziをリリース。
2016年9月:Bytedanceが中国で短編動画アプリDouyinをリリース。
2017年8月:世界の一部地域でDouyinの国際規格版「TikTok」がリリース。
2017年11月:Bytedanceがリップシンク音楽アプリMusical.lyを買収。
2018年5月:TikTokが2018年1月~3月の世界ダウンロード数1位に輝く。
2018年8月:BytedanceがMusical.lyの終了を発表。ユーザーは全てTikTokに移行。
2019年2月:Musical.ly、13歳未満のデータ処理に問題があり、罰金を科される。
2019年10月:Facebookのマーク・ザッカーバーグCEOがTikTokを非難。検疫すべきと述べた。
2020年5月:対外投資委員会(CFIUS)がTikTokに対する国家安全保障調査を開始。
2020年7月:ディズニーの幹部、ケビン・マイヤー氏がTikTokのCEOおよびBytedanceの最高執行責任者に就任。
2020年8月:マイクロソフト社は、アメリカおよび他の3つの市場でTikTokを買収すべく交渉中であると発表。なお、投資家たちに少数株主として参加を呼びかける可能性もある、とコメントした。
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