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米アラバマ州の高速道路で警察官が男射殺、拳銃向ける

米国の警察による容疑者射殺件数は、毎年およそ1000人規模で推移しており、先進国の中で突出して多い。
パトライト(Getty Images)

アラバマ州バーミンガムの高速道路で警察官に拳銃を向けたとして、男が射殺された。警察が12日、明らかにした。

それによると、事件はバーミンガム郊外の州間高速道路で12日早朝に発生。警官隊は道路中央で自転車に乗っていた男を停止させた。

男は4車線を行き来して交通を妨害していた。

ホームウッド警察署によると、警察官が拘束を試みた際、男が拳銃を取り出したという。

同署は声明で「被疑者はスライドを引き戻して拳銃に弾丸を装填し、銃口を警察官に向けたため、警察官が先に発砲した」と明らかにした。

また同署は発砲した警察官のボディカメラを確認し、被疑者が銃口を警察官に向けたことを確認したと述べた。

米国の警察官による容疑者の射殺は長年にわたり深刻な社会問題となっている。先進国の中でも突出して件数が多く、毎年ほぼ一定数で推移していることが特徴である。銃社会という米国特有の事情に加え、警察の制度や訓練方針、人種や社会的格差の問題が複合的に作用しており、単純に治安や犯罪率だけで説明できない構造的要因が存在する。

1. 射殺件数の実態

米国では連邦政府が全国的に一元化された統計を十分に整備しておらず、実際の件数把握は新聞社や大学研究機関の調査に依存している。ワシントン・ポスト紙が公開しているデータベースによれば、2015年以降、毎年だいたい950〜1050人程度が警察官によって射殺されている。これは一日あたり平均で3人前後にあたり、他の先進国と比較すると桁違いに多い。例えばイギリスや日本では警察官が年間に銃を発砲する件数自体が数十件未満であり、射殺事案は数年に1件程度にとどまる。それに比べて米国は圧倒的に高い水準で恒常化している。

2. 銃社会の影響

射殺件数が多い最大の要因は米国が世界一の銃保有国であるという事実にある。民間に流通している銃は4億丁以上と推計され、ほぼ国民一人当たり1丁に匹敵する。警察官は常に相手が銃を所持している可能性を念頭に行動せざるを得ず、危険を察知した時点で致死的な武力を行使する傾向が強い。銃規制が緩い州では銃の携帯が合法であるため、交通取り締まりや家庭内トラブルの通報であっても、現場が一瞬で銃撃戦に発展する危険がある。そのため警察側は「撃たれる前に撃つ」文化を強め、結果として射殺件数が減らない構造が形成されている。

3. 警察の訓練方針と制度

米国の警察は「自らの安全を最優先せよ」という訓練を受けており、危険を感じれば即座に発砲することが正当化されやすい。さらに米国は警察制度が地方分権的で、1万以上の警察組織がそれぞれ独自に基準を定めている。そのため発砲判断の厳格さや透明性に統一性がなく、誤射や過剰な武力行使が頻発する。ボディカメラ装着やデスカレーション(緊張緩和)訓練の導入が進められているが、まだ一部地域に限られており、全国的な改善には至っていない。

4. 人種的不平等

射殺件数を分析すると、人種による偏りが顕著である。人口比で見ると黒人は約13%に過ぎないが、射殺件数の25〜30%を占める。ヒスパニック系も白人に比べて高い割合で犠牲になっている。これは単なる犯罪率の問題ではなく、歴史的な差別、貧困、治安政策の偏在などが重なった結果である。特に黒人男性が射殺される事件は大きな社会的反発を呼び、「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動など全米規模の抗議活動につながった。

5. 精神疾患と薬物問題

射殺された容疑者の中には、精神疾患や薬物依存を抱えていた人が多いとされる。各種調査では射殺事案の2〜3割がこのカテゴリーに属するとされ、本来は医療や福祉的対応が必要な状況でも警察が最前線で対応し、危険を感じれば発砲する事態が多発している。米国には精神医療の受け皿が不足しており、警察が「事実上の社会的セーフティネット」となっていることが問題を深刻化させている。

6. 地域差と政治要因

射殺件数には州や都市ごとの大きな差がある。銃規制が緩く、銃保有率が高い南部や西部では件数が多い傾向がある。また共和党支持の強い州では警察の権限強化が優先されやすく、民主党が強い都市部では警察改革や監視が進められる傾向がある。政治的対立も射殺件数の改善を妨げており、銃規制や警察予算削減の是非をめぐって激しい議論が続いている。

7. 改革の試みと限界

2010年代以降、ボディカメラ装着義務化、発砲基準の厳格化、精神疾患対応の専門チーム創設などが進められた。しかし全体的な射殺件数は依然として1000人前後で推移し、大幅な減少にはつながっていない。根本にある銃社会と人種格差の構造が解消されない限り、警察の行動だけを規制しても限界があることが浮き彫りになっている。


結論

米国の警察による容疑者射殺件数は、毎年およそ1000人規模で推移しており、先進国の中で突出して多い。その背景には銃の蔓延、警察の訓練方針と分権的制度、人種的不平等、精神医療の不足といった複雑な要因がある。改革は進められているが、銃規制や社会構造の是正が伴わなければ、抜本的改善は難しい。米国の射殺問題は単なる治安問題ではなく、国家の制度的矛盾と社会的不平等を映し出す構造的課題であると言える。

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