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米領プエルトリコの富裕層誘致税制に疑問符、連邦政府が監視強化を提言

報告書はこれらの優遇措置が年間で数億ドル規模の税収減を引き起こしている可能性があり、内国歳入庁(IRS)に対して管理・監督の改善を求めている。
米領プエルトリコのビエケス島(Getty Images)

領プエルトリコの税制優遇策が富裕層の米国本土からの移住や投資を誘引していることに対し、米政府会計検査院(GAO)が12月12日付の報告書で強い懸念を示した。

報告書はこれらの優遇措置が年間で数億ドル規模の税収減を引き起こしている可能性があり、内国歳入庁(IRS)に対して管理・監督の改善を求めている。今回の報告は、議会下院天然資源委員会の要請を受けて実施された監査に基づくもので、2012年からのプログラム運用を詳細に検証している。

報告書はプエルトリコが過去13年で5800件を超える居住投資家向け優遇措置と、3900件近い輸出サービス事業向け優遇措置を認可してきたと指摘した。これらの優遇措置の大半はカリフォルニア州、フロリダ州、ニューヨーク州、テキサス州出身の高所得者に利用されているという。

また報告書は、優遇措置を受けた者の中には連邦税の義務やプエルトリコでの居住要件を十分に満たしていない可能性があると警告している。

GAOは特にIRSによる監督体制の脆弱さを問題視している。IRSはこれまで、プエルトリコ側から完全な納税者データを入手できず、対象者の連邦税申告の実態を把握することが困難だったと指摘された。

またプエルトリコ当局が居住要件を満たしていない可能性のある179人の納税者リストをIRSに提供したにもかかわらず、IRS内部で優先度が低いと判断され対応が遅れた事例も報告書で言及された。こうした監視の甘さが、富裕層による税逃れや不正利用につながる懸念を強めている。

民主党の議員たちは「IRSの人員削減により、これらの富裕層が基本的な居住要件を満たしているかどうかすら適切にチェックできていない」と批判し、税制優遇策の見直しを訴えている。また、民主党のオカシオコルテス(Alexandria Ocasio-Cortez)議員も「この政策はプエルトリコ島内の格差を拡大し、社会保障や医療制度など連邦政府の重要プログラムへの税収を奪っている」と強く非難している。

一方で、これらの優遇措置が一定の経済効果をもたらしてきたとの評価も存在する。プエルトリコ経済開発・商務省の2019年調査では、これらの制度により3万6200件超の雇用が創出され、25億ドル以上の投資が誘発されたとの報告がある。また2024年の別調査では、優遇措置適用者が1000を超える企業を設立し、税金や寄付金として2億ドル超を支払ったと推計される。しかし、プエルトリコ財務省は2020~2026年の間に居住投資家向けで44億ドル、輸出サービス向けで18億ドルの税収を放棄すると見込んでおり、純粋な経済効果への疑問も強い。

GAOは報告書で、優遇措置の影響を正確に評価することは困難だとしつつも、IRSとプエルトリコ当局間のデータ共有や監督機能の強化が必要だと結論付けた。これを受け、IRSはGAOの提言に同意し、プエルトリコとのデータ提供協議を進めるなど対応を表明している。今後、税制優遇策の公正性や持続可能性について、連邦政府・地元両当局による更なる検討が求められる。

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