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米ワーナー争奪戦、ネトフリvsパラマウント、トランプ介入で混乱も

ワーナーの取締役会は12月中旬、ネトフリが提案した約720億ドル(約11.3兆円)のスタジオとストリーミング部門買収案を支持するよう株主に促した。
2025年12月18日/米カリフォルニア州ロサンゼルス、パラマウントの給水塔(AP通信)

動画配信大手ネットフリックス(Netflix)と老舗メディア大手パラマウント(Paramount)がハリウッドの巨人ワーナーブラザース・ディスカバリー(Warner Bros. Discovery, WBD)の買収を巡って激しい争奪戦を展開しており、規制当局による審査の行方に注目が集まっている。この戦いは単なる企業買収にとどまらず、映画・テレビ産業全体の勢力図を塗り替える可能性があるとして、米国や各国の規制機関が慎重な姿勢を示している。

ワーナーの取締役会は12月中旬、ネトフリが提案した約720億ドル(約11.3兆円)のスタジオとストリーミング部門買収案を支持するよう株主に促した。一方で、スカイダンス傘下のパラマウントは約780億ドル(約12.2兆円)規模の敵対的買収提案を進めており、ワーナー全体の買収を目指して直接株主に働きかけている。両案は規模や対象資産が異なるものの、最終的にどちらが勝利するかによってエンタメ業界の競争環境が大きく変わる可能性がある。

いずれの買収案も成立には各国の独占禁止法に基づく審査をクリアする必要があるとみられている。米司法省(DOJ)は合併が競争を阻害する恐れがあるとして訴訟や条件付承認を求める可能性がある。こうした反トラスト審査は通常数カ月から1年以上かかることがあり、欧州など他地域の規制当局も独自に審査を行う可能性がある。

専門家はネトフリによるワーナーのスタジオ部門とHBO Maxなどストリーミング資産の買収案が成立した場合、米国のストリーミング市場におけるネトフリの影響力がさらに強まると指摘する。パラマウント側は両社の合併が競争を抑制し、消費者の選択肢を狭めると批判、独禁法審査でこの点が争点となる可能性がある。規制当局がネトフリやYouTubeなど広範な動画配信サービス全体を競争市場として評価するかどうかも審査の焦点となる見込みだ。

また、パラマウントが提案する敵対的買収案には、ワーナーのニュース部門CNNなどケーブルテレビ事業も含まれるため、規制当局がメディア集中の観点から慎重な姿勢を取る可能性も指摘されている。パラマウントの買収が実現した場合、CBSやMTVなど自社のテレビネットワークと統合されることで、ニュースやエンターテインメント分野での影響力が大きく膨らむとの見方もある。

政治的要素もこの案件を複雑化させている。トランプ(Donald Trump)大統領はこの大型取引に異例の関心を示し、自身が審査結果に関与する可能性を示唆する発言をしており、規制プロセスの透明性や独立性への懸念を生んでいる。こうした政治的な影響が審査の行方にどのように影響するかは不透明だ。

買収が成立した場合、映画やテレビの制作体制、配信サービスの競争、労働環境に至るまで幅広い影響が予想される。業界関係者の中には、統合による重複部門の整理が進み、制作現場での雇用に影響を及ぼすとの懸念も出ている。規制当局はこうした産業全体への波及効果を慎重に評価する必要があり、交渉の行方は今後数カ月にわたって世界の注目を集めることになりそうだ。

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