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フィギュアスケートがLGBTQ+の「安らぎの場」となった経緯

フィギュアスケートは伝統的に性役割やジェンダー表現に関する固定観念を抱えてきた競技でもある。
2026年1月9日/全米フィギュアスケート選手権女子を制したアンバー・グレン選手(AP通信)

2026年冬季オリンピックの開幕が近づく中、フィギュアスケートがLGBTQ+(性的少数者)コミュニティにとって単なる競技を超えた「安全な空間」としての役割を果たしていることが注目されている。競技会場で虹色の旗が掲げられる光景は、かつてないほど一般的になっている。これらの旗は約50年にわたりプライドと連帯の象徴となってきたもので、ファンの間で幅広く見られるようになった。特に世界選手権など主要大会では、観衆のあらゆる場所で虹旗が振られる光景が目立っている。

全米選手権3連覇のアンバー・グレン(Amber Glenn)選手はこの流れの象徴的存在だ。本人はパンセクシュアルを公言しており、選手権優勝時には虹の旗を肩に羽織って祝福を受けた。自身がLGBTQ+コミュニティのアイコンになろうとしたわけではないと語るものの、フィギュアスケート界での経験が自己受容につながったと述べている。グレン選手は自身の性のあり方を公にしたのは比較的遅い時期で、過去にうつ病や不安障害、摂食障害といったメンタルヘルスの困難を抱えた経験がある。フィギュアスケートの世界で支えられたことで、自分と似た立場の人々が安心して自分らしくいられる場を見出せる可能性に気づいたという。

フィギュアスケートは伝統的に性役割やジェンダー表現に関する固定観念を抱えてきた競技でもある。20世紀を通じて、女性にはより女性らしさが、男性には強い男性性が求められる傾向が強かった。しかし1990年代にルディ・ガリンド(Rudy Galindo)選手が自身のセクシュアリティを明かして全米チャンピオンになったことが、その壁を崩すきっかけとなった。後にジョニー・ウィアー(Johnny Weir)選手もカミングアウトを果たし、コート外でも自分のあり方を受け入れる重要性を訴えた。これがLGBTQ+アスリートにとっての励みとなり、以降多くのトップスケーターが公に自分のセクシュアリティを明らかにするようになった。

フィギュアスケートが特異なのは、LGBTQ+の選手たちが国際大会やオリンピックといった大舞台で成功を収めている点だ。2018年平昌五輪ではアダム・リポン(Adam Rippon)選手がゲイを公表している選手として初めて代表チーム入りし、メダルを獲得した。2022年北京五輪ではティモシー・ルデュック(Timothy LeDuc)選手がノンバイナリー選手としてペア競技に出場するなど、多様なアイデンティティが世界の舞台で可視化された。こうした実績が、スポーツ界全体のインクルーシブな意識を後押ししている。

一方で、社会全体の風潮は必ずしも一様ではない。米国内では政治的な対立がLGBTQ+の権利や認識を巡って激化し、教育や医療、住宅政策に関して逆行する動きも見られる。こうした状況が逆にコミュニティ内での連帯感を強め、フィギュアスケートをはじめとする支援的な環境が求められている背景となっている。

メダリストであるジェイソン・ブラウン(Jason Brown)選手は自身のカミングアウトについて、「誰かが自分らしくいられる助けになれば」と語る。彼はスケーターだけでなく、コーチや振付師、観客も含めた幅広い人々が安心して支持し合えるコミュニティを築くことを目指していると述べた。フィギュアスケートは単なる競技の枠を超え、LGBTQ+の人々にとって互いを認め合い安心して存在できる場となっている。

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