ブラジル、国連総会出席の保健相に対する米ビザ制限に抗議
第二次トランプ政権発足以降、米国とブラジルの関係は貿易摩擦、政治的対立、環境問題、地政学的な要因が複雑に絡み合い、急速に悪化している。
とトランプ米大統領(Getty-Images/AFP通信).jpg)
トランプ米政権が来週の国連総会に出席するブラジル政府高官に対し、国内での移動を制限するビザ(査証)を発給した。現地メディアが19日に報じた。
ブラジル政府はこれを受け、国連に対応を促した。
AP通信によると、ブラジルのパジーリャ(Alexandre Padilha)保健相のビザはニューヨーク市内での移動を国連本部と宿泊ホテル周辺の数ブロックに限定するものであった。
パジーリャ氏は来週の国連総会に出席する予定だ。
ルラ政権はこれを受け、国連事務総長に書簡を送り、トランプ政権が総会に出席予定の他の政府高官のビザ発給を拒否、取り消し、または制限する可能性があることを懸念していると伝えた。
トランプ(Donald Trump)米大統領はブラジルの盟友ボルソナロ(Jair Bolsonaro)前大統領が「魔女狩り裁判」にかけられているとして、この裁判を打ち切るよう要求。ブラジルの関税率を50%に引き上げ、最高裁判事に制裁を科した。
ホワイトハウスと国連はパジーリャ氏のビザ問題についてコメントしていない。
米国とブラジルの関係悪化の背景
25年7月、トランプ氏はブラジルからの輸入品に対して50%の関税を課す大統領令を発令した。これは、ブラジル最高裁がボルソナロ氏に対して27年の禁錮刑を言い渡したことを受け、ブラジル政府がボルソナロの政治的迫害を行っていると米国が非難したことに起因している。これにより、両国間の経済的・政治的な緊張が高まった。
貿易摩擦と経済的影響
関税の導入により、ブラジルからの輸出は急減した。例えば、コーヒーの輸出は約50%減少し、牛肉の輸出は月間3万トンから7000トンに激減した。これに対し、米国議会ではコーヒーに対する関税撤廃を求める動きが出ている。ブラジル側は報復措置を検討しており、貿易戦争の様相を呈している。
政治的対立と外交的緊張
ブラジル政府は米国の関税措置を「政治的で非論理的」と批判し、ボルソナロ氏の有罪判決は民主主義の擁護であると強調している。また、米国はブラジル最高裁のジモラエス判事に対して、マグニツキー法に基づく制裁を科し、資産凍結を行ったが、ブラジル国内ではこれを主権侵害と受け止める声が強まっている。
さらに、米国はブラジル政府がオンラインプラットフォームに対して言論統制を行っていると非難し、これが米国市民の表現の自由を侵害していると主張している。これらの措置は、両国間の信頼関係を大きく損ねる結果となった。
環境問題と国際的な影響
環境問題も両国関係の悪化に拍車をかけている。アマゾン熱帯雨林の伐採率は2025年に27%増加し、その半分が違法な焼畑によるものと報告されている。米国はこれを国際的な懸念事項と捉え、ブラジル政府に対して環境保護の強化を求めている。
一方、ブラジル政府はアマゾン開発の一環として、保護区域内での道路建設や環境規制の緩和を進めており、これが国際社会からの批判を招いている。これらの動きは、米国をはじめとする国際社会との対立を深める要因となっている。
地政学的な影響とブラジルの対応
米国の圧力に対し、ブラジルは多国間主義を強調し、南米共同市場(メルコスール)との自由貿易協定を締結するなど、他国との経済的連携を強化している。また、BRICS諸国との関係を深化させ、米国依存からの脱却を図っている。
しかし、これらの対応には限界もあり、BRICS内部での中国とインドの対立や、米国との関係悪化による経済的影響が懸念されている。ブラジルは国際舞台での立場を維持するために、慎重な外交戦略を求められている。
結論
第二次トランプ政権発足以降、米国とブラジルの関係は貿易摩擦、政治的対立、環境問題、地政学的な要因が複雑に絡み合い、急速に悪化している。両国はそれぞれの立場を主張し合い、対立の構図が鮮明となっている。今後、ブラジルは多国間主義を軸に外交戦略を展開する必要があり、米国との関係改善には時間と努力が必要とされるだろう。