SHARE:

第2次トランプ政権の成果と課題 25年10月

第2次トランプ政権は発足から現在までにおいて、明確な政策方向性(移民制限、規制緩和、関税と減税の組合せ、エネルギー促進、連邦行政の再編)を速やかに実行することで短期的な目に見える成果を挙げた。
2025年4月2日/米ワシントンDCホワイトハウス、相互関税の一覧表を持つトランプ大統領(AP通信)

1. 概観(2025年1月20日〜現在)

第2次トランプ政権は就任直後から強力な大統領令(Executive Orders)による迅速な政策転換を多用し、移民管理の強化、規制緩和の一斉実施、エネルギー産業の復権、法人・個人税制の軽減など「内向きの経済再活性化」を軸とする政策パッケージを掲げて行動した。就任式当日および直後に複数の行動計画と大統領令を発出し、各省庁に前政権からの方針変更を命じた。ホワイトハウスは複数の大統領令を通じて移民対策を最優先課題として掲げ、同時にエネルギー分野の障害除去を約束した。

2. 主な成果(概要)

以下に、政権が成果として主張する主要項目を挙げ、客観的なデータや第三者機関の評価を交えて説明する。

2.1 移民政策の強化:国境管理と即時送還の実行

政権は国境管理強化を最優先事項と位置づけ、入国管理手続きの即時化・迅速送還(expanded expedited removal)を行政命令で推進した。国土安全保障省(DHS)や関連機関は、着任後数か月で大量の強制出国(removals)・出国促進を実施したと報告しており、政権側は「数百万規模の不法滞在者の移動」を成果として強調している。例えばDHSは、就任後250日間で200万人超が「米国を出た/出された」とする節目を報告したが、この数字は自主退去、自発的出国、強制送還など異なるカテゴリーを含む点に注意が必要である。

一方、法的手続きの短縮や迅速送還に対しては司法での争点となり、NGOや司法当局との係争が多数発生している点も重要である(後述)。

2.2 経済・貿易政策:関税と減税による国内投資牽引

政権は保護主義的な関税政策と減税を組み合わせ、製造業やエネルギー投資を国内に取り戻す戦略を展開した。トランプ大統領は就任後、複数の関税引上げ・新関税措置を発動し、包括的な輸入関税の拡大により輸入製品の価格上昇圧力を生じさせた。議会調査局(CRS)や経済系シンクタンクは、トランプ政権が就任以降に対外関税を大幅に拡大していると分析しており、関税措置は貿易摩擦や供給網への影響をもたらしている。

同時に、政権は減税や税制優遇を通じて民間投資を喚起する政策パッケージをまとめ、2025年の予算・調整(reconciliation)や別途の減税法案により、法人税目線や設備投資の手当てを実行に移した。税政策の影響評価では、タックス・ファンデーション(Tax Foundation)やタックス・ポリシー・センター(Tax Policy Center)が短中期的に財政赤字を拡大する一方で実質的なGDP押し上げを見込むとの試算を示している。

2.3 大統領令による規制緩和とエネルギー生産促進

就任直後に環境規制やエネルギー関連の規制撤廃・見直しを標榜し、EPAや内務省などの主要規制機関に対して大規模な見直しを指示した。EPAは「史上最大級の規制緩和アクション」を発表し、石油・天然ガス・石炭・鉱業などの許認可・開発を早める施策を打ち出した。これにより短期的に化石燃料生産の障害が取り除かれ、採掘やリグ再稼働、パイプライン整備が活発化する傾向が観察された。

2.4 行政改革:連邦政府職員の管理と雇用制約

政権は就任当日に連邦職員の採用凍結(hiring freeze)や人事制度の見直しを導入し、政権主導の優先事項に沿った人事再編を推進した。ホワイトハウスは新たな大統領令で採用凍結や戦略計画の再提出を求め、連邦職員の削減・再配置を指示した。これにより短期的には歳出抑制や管理の一本化が図られる一方で、専門人材の流出や官僚機構の運営能力低下の懸念も出ている。

3. 政策(移民政策、経済・貿易、規制緩和、行政改革)

以下では、各テーマに沿って詳細に論じる。

3.1 移民政策:国境管理最優先と即時送還の強化

政権は「国境管理を最優先事項」とし、大統領令で迅速送還(expanded expedited removal)や入国阻止、査証・入国資格の厳格化を指示した。DHS・ICEは逮捕・拘束・送還を拡大し、自己申告的な退去や自発的出国を促す施策も実施した。DHSの発表によると、就任後の数か月で大規模な「出国・退去」数が報告されており、政権側はこれを「国境の回復」として強調している。

ただし、法的プロセスの短縮と大量送還を同時に進める試みは司法での争いを招き、複数の連邦裁判所が一部措置の差し止めや違憲・手続き違反の疑いを指摘している。市民団体や弁護士団体は、速やかな審理や救済の確保が損なわれる可能性を主張しており、行政と司法の間で緊張が続いている。実際に、ACLUなどが行政の早期送還措置を巡って裁判で成功例を得ており、政策実行面での法的リスクが高いことが示されている。

影響面では、短期的には不法移民の数的減少を示す指標が出るが、労働市場では農業・建設・サービス業などで労働力不足が顕在化し始めているとの報告がある。企業は合法的な労働力確保に苦慮し、人材コストの上昇やサプライチェーンの停滞を訴えるケースが増えている。

3.2 経済・貿易政策:減税と保護主義の併存

政権は減税を通じて企業の国内投資を促進する一方で、輸入関税を多層的に課す保護主義政策を展開した。税制面では、2017年のTCJAの延長や追加の投資減税を含む法案を打ち出し、2025年夏には議会での重要法案が成立・署名されるなど短期的な政策実行がなされた。専門機関は、こうした減税は経済成長を一時的に押し上げる効果があるが、長期的には財政赤字と公的債務を膨らませると分析している。タックス・ファンデーション(Tax Foundation)は大規模な税減免が中長期の歳入減少をもたらす試算を出している。

貿易面では「輸入品に対する高関税」や特定国への追加関税、セクター別保護措置が多数導入された。これにより消費者価格の上昇圧力が強まり、国際的には報復関税や貿易摩擦の激化を招いた。複数の報道・分析では、関税は家計負担を増やしインフレを押し上げる要因になっていると指摘されている。タックス・ファンデーションの試算やBLSの物価統計は、関税導入後に輸入物価や消費者物価に影響が出ていることを示唆している。

3.3 規制緩和とエネルギー政策の転換

政権は温室効果ガス削減や脱炭素化といった前政権の重点政策を転換し、化石燃料開発を加速する方針を採った。ホワイトハウスの指示を受けてEPAや内務省が規制見直しを進め、EPAは大規模な規制緩和を公表した。これにより短期的には石油・ガスの生産や関連インフラの許認可が迅速化し、地域経済や雇用に即時的なプラス効果が出ているケースがある。

一方で、脱炭素目標の後退や電気自動車(EV)促進政策の見直しは、再生可能エネルギー分野・環境保護団体・長期投資家からの反発を招き、国際的な気候外交上の信用低下を招くリスクがある。また、化石燃料重視の方針は長期的な気候変動対策と整合しないため、将来世代への外部不経済と受け止められる可能性が高い。

3.4 行政改革:雇用制約と職員解雇・再編

政権は連邦職員の採用凍結や業務再優先化を命じ、政治任用拡大や職員解雇の手続きを強化する方向で行政改革を進めた。新たな大統領令では、各機関に戦略計画の再提出や採用の例外審査を要求し、政策優先順位に沿った人員配置を実施した。これにより、短期的には人件費抑制や行政の「意思決定速度」向上を図ることが可能になるが、専門性の低下や既存サービスの停滞という負の側面も発生しているとの指摘がある。

4. 主な課題・問題点

成果と並行して、政権は以下のような深刻な課題に直面している。

4.1 保護主義的政策とインフレリスク

大幅な関税導入は短期的に特定産業を保護するが、輸入コストの上昇が国内消費者価格に転嫁され、インフレ率の押し上げ要因になっている。2025年のCPI(消費者物価指数)は前年比で上昇が続き、関税政策が物価に与える影響は無視できない水準に達している。専門家は、関税による実質的な「消費者税」増加と、連鎖的な供給網混乱を警告している。BLSのCPIデータは物価上昇傾向を示しており、国民生活への負担増加は政策評価における重要な論点である。

4.2 移民政策を巡る混乱と法的紛争

迅速送還・大規模退去政策は行政実行のスピードを上げたが、法廷闘争と手続き上の瑕疵を招いている。市民団体や州政府が差止め訴訟を起こし、連邦裁判所が一部措置を差し止める判決を出すなど、政策の継続性に法的リスクが常に存在する。実際に、連邦裁判所は一部の「高速送還」措置を差し止めた事例が報告されている。法的な不確実性は政策実施のコストを押し上げ、被対象者の人権や適正手続き保障の問題を顕在化させている。

4.3 企業の労働力確保への影響

移民流入の抑制は短期的には不法就労を減らす意図があるが、農業や建設、サービス業など移民に依存するセクターで人手不足を深刻化させ、賃金上昇や生産コスト増を招いている。これにより企業は労働力確保コストが増大し、価格転嫁や生産縮小に踏み切る例が増えている。

4.4 外交関係の不確実性と貿易摩擦

関税拡大や一方的措置は国際社会での信頼を損ね、同盟国・貿易相手国からの反発や報復措置を誘発した。大規模な関税はWTO体制やUSMCAなど既存の多国間・二国間協定との摩擦を生み、交渉上のレバレッジを高める反面、国際的な経済協調の崩壊というリスクを伴う。報復関税や調達制限は米国企業の海外事業にもマイナス影響を与え、グローバルサプライチェーンの再構築コストを増加させる。

4.5 環境・エネルギー政策の転換に伴う摩擦

脱炭素政策の後退は長期的に国際的な気候目標と矛盾し、米国の気候外交上の信認を低下させる恐れがある。投資家や企業は気候規制の不確実性を嫌い、再生可能エネルギーやEV関連の投資環境が揺らぐ可能性がある。国内では環境保護団体や州レベルの規制が連邦政策と対立し、政策の二律背反が行政コストを増大させている。

4.6 財政赤字と公的債務の増加

減税と同時に景気対策や防衛費の拡大が進むと、歳入減少と支出増加が重なり財政赤字が拡大する。専門機関の試算では、大規模減税は短中期的にGDP押し上げ効果を持つ一方で、公的債務の増加を招くとの見方が示されている。長期的な持続可能性と金利上昇リスクが財政面の重要な懸念である。

4.7 テクノロジー政策と表現・言論の自由

政権はテクノロジー企業に対して規制と圧力を強める方向で動き、コンテンツ管理やプラットフォームの監視を強化する方針を示した。言論の自由やプラットフォーム上の情報管理に関しては、過度の介入が検閲や自己検閲を誘発する懸念を生む。テック企業との緊張はイノベーション環境にも影響する。

4.8 司法・行政の緊張と政府閉鎖リスク

移民政策や関税運用、連邦職員の人事操作などは連邦裁判所との対立を招き、行政の実行力が裁判所判断に左右される状況が続いている。さらに、歳出と予算編成を巡る政治的対立は政府閉鎖(government shutdown)のリスクを高め、行政サービスの停滞と国民負担を増やす恐れがある。

5. 具体的な裁判・訴訟例と機関データ

政権の移民強行策は複数の訴訟を誘発しており、非営利団体や州政府による差し止め請求が認められた事例がある。例えば、ACLUが一部の「高速送還」政策に対して勝訴し、裁判所が手続保障の欠如を指摘して一部措置を差し止めた事例がある。これにより行政の即時施行力が司法判断で制約され、政策の恒常的運用に法的不確実性が残る。

また、物価とインフレに関しては、BLSのCPI報告が最新の消費者物価動向を示しており、関税やエネルギー価格の上昇がCPI上昇の要因と分析されている。

6. 社会的・経済的影響の評価

政権の短期成果(雇用創出、エネルギー産出の増加、特定産業の回復)は確かに存在するが、以下のトレードオフが生じている。

  • インフレと生活コスト上昇:関税とエネルギー価格変動が家計負担を増やしている。専門家試算では関税導入が一世帯当たり数百ドル〜千ドル台の実質負担増を生む可能性が示されている。

  • 労働市場の歪み:移民規制による労働力不足が一部産業で生産性低下やコスト増を招いている。

  • 短期的財政刺激と長期債務拡大:減税は需要を押し上げるが、歳入減少が公的負担となるリスクを残す。

7. テクノロジー政策・言論の自由・民主制度への影響

政権はプラットフォーム監視と情報安全保障を名目にテクノロジー企業への介入を強める方針を示した。こうした介入は国家安全保障の観点からの正当性も有するが、過度に政治的な介入が行われると表現の自由や報道・学術の独立性を損なう危険がある。司法と立法によるチェックが重要である。

8. 今後の展望

第2次トランプ政権の施策は短期的には特定産業や地域経済を刺激する一方、長期ではインフレ、貿易摩擦、財政持続性、国際信認の低下といった負の遺産を残すリスクが強い。今後の重要ポイントは以下である。

  1. 法的整合性の確保:移民政策や関税政策を持続可能にするには、立法手続きや裁判所の判断を踏まえた制度設計が不可欠である。急速な行政命令による実行だけでは長期的安定は難しい。

  2. インフレ管理と経済の均衡:関税・減税の組合せは短期刺激を与えるが、物価押上げや購買力低下を招くため、財政と金融政策の整合性を保つ必要がある。BLSの物価統計を注視し、追加的なマクロ対策を検討するべきである。

  3. 外交的な調整:関税や一方的措置は国際協調を損ねるため、二国間・多国間での調整ルートを維持・確立し、報復リスクを低減する交渉戦略を強化すべきである。

  4. エネルギー移行のバランス:エネルギー安全保障を確保しつつ、長期的な気候目標と整合する中期計画を示すことが国内外の信頼回復につながる。短期の化石燃料活性化だけでなく、再エネ投資や技術革新への支援も並行して行う必要がある。

  5. 人材政策の見直し:労働市場の逼迫を緩和するための合法的な就労・労働移動の枠組みを整備し、企業の人材確保と移民管理を両立させる制度設計が求められる。

9. 総括

第2次トランプ政権は発足から現在までにおいて、明確な政策方向性(移民制限、規制緩和、関税と減税の組合せ、エネルギー促進、連邦行政の再編)を速やかに実行することで短期的な目に見える成果を挙げた。しかし、これらの施策は法的・経済的・外交的なトレードオフを伴い、インフレ圧力、国内労働市場の歪み、国際的な摩擦、財政持続性の問題、司法との緊張といった複数の深刻な課題を同時に生み出している。今後は、政策の即効性だけでなく制度的正当性、国際協調、マクロ経済管理、環境の長期的持続可能性を如何に両立させるかが政権の成否を左右する重要な試金石になる。


参考主要出典

  • ホワイトハウス:大統領令「Protecting The American People Against Invasion」等。

  • ホワイトハウス:「Unleashing American Energy」政策文書

  • DHS: 移民関連の統計・報道(2025年報告、250日で200万人超の退去等)。

  • EPA: 大規模な規制緩和アクションの公表。

  • BLS(米国労働統計局): 消費者物価指数(CPI)報告。

  • CRS(Congressional Research Service): 大統領の関税措置・年表。

  • Tax Foundation / Tax Policy Center:減税と財政影響の分析。

  • ACLU等による移民措置への訴訟報道。


1)四半期別 GDP 影響試算(シナリオ別:2025 Q1〜2026 Q4 想定)

以下は「GDP(実質)に対する寄与(年率換算の差分を簡略表示)」として示す。基にした推定は、RiksbankスタッフメモやPIIEのモデル結果(10pp程度の関税ショックで中期的に数十〜数百ベーシスポイントの成長押下)およびIMF等の見方を参照し、四半期ごとに平滑化して配分した。実際の値はモデル・前提(報復の有無、通貨・金融政策対応、供給側ショック等)で変わることを前提とする。

:下表の「%ポイント」は「ベースライン成長率に対する差分(年率換算)」を示す(例:+0.2ppt はベースライン比で年率0.2%ポイントの上乗せ/下押し)。

前提(簡略)
  • ベースライン(政策中立):2025年通年実質成長率想定 = 2.0%(IMF/BEAの中期想定に近い)。

  • 関税10%シナリオ:Riksbank・McKibbin系の試算に合わせ、2年程度で0.3〜0.4%の実質GDP下押し(0.3–0.4ppt)を目安にする(報復なし)。報復が起これば1年〜2年でほぼ1%近い下押しも想定される(PIIEのグローバルモデル)。

表:四半期別想定 GDP 影響(年率換算の差分:ベースライン比)

(単位:実質GDPに対する年率差分、%ポイント)

四半期ベースライン(差分=0)関税10%(非報復)関税10%+限定報復説明
2025 Q1(就任期)0.0−0.1−0.1関税導入のショック前後で前倒しインポートの影響など短期ノイズあり。
2025 Q20.0−0.2−0.4関税実施で供給網・コスト転嫁が拡大。消費者物価上昇がマイナス要因。
2025 Q30.0−0.3−0.7中期的な需要サイド・供給サイド双方へ波及。
2025 Q40.0−0.35−0.85関税の実体経済への浸透が進む。Yale等の短期観察に符合。
2026 Q10.0−0.35−0.9継続的影響(在庫調整・投資抑制)。
2026 Q20.0−0.30−1.0相手国の追加報復で輸出減少が本格化するケース。
2026 Q30.0−0.25−1.0緩やかな収束シナリオだが長期コスト残存。
2026 Q40.0−0.2−0.9追加の政策調整(財政・金融)で緩和される可能性あり。IMF

解説:上表はモデル点推定を四半期に割って配分した簡易シミュレーションで、非報復の場合でも「数四半期で0.3–0.4%ポイントの下押し」が中期的に見込まれる(Riksbank等の提示と整合)。相手国が報復すれば米国の下押し幅は大きくなり、PIIEのシミュレーションは1%近いGDP減少に言及している。なお、初期には輸入の前倒し(front-loading)で一時的にGDP寄与がプラスになる四半期もありうるが、それは反動で打ち消される。


2)関税別の輸入量変化(主要品目・月次/四半期比較)

ここでは、実際の観測と報道を組み合わせて「関税導入前の前倒し⇒導入後の反動減少」という典型パターンを示し、主要カテゴリ別の実績変化(2025年の代表的月/四半期)をまとめる。

実績サマリ(代表的観測)
  • 総輸入(貨物+サービス):2025年上期は前年同期比で増加が見られたが、関税導入とその後の混乱で一部月に大幅落ち込みが発生(例:4月に輸入が大きく落ち込む報道)。BEAの月次で4月以降ボラティリティが増加。

  • 前倒し(front-loading)効果:関税発表前(2025年Q1/Q2)に輸入が急増(年率ベースで一部品目で20–30%上昇)。PIIE・報道は「輸入者が関税発動前に在庫を積み増した」ことを確認している。

  • 反動(導入直後):関税導入直後(2025年4月を含む月)に輸入価額ベースで大きな落ち込み(FT報道が示すように一時的に月次で約20%減少するカテゴリがある)。

品目別(代表カテゴリ) — 値は観測レンジ/報道要旨(月次 or 四半期)

注:以下は公表記事・統計が示す変化幅の要旨である。

  • 消費財(衣類・玩具・家電等)

    • 2025年3月(前倒しピーク):輸入価額が前年同月比で+20〜25%(在庫前倒し)。

    • 2025年4月(導入直後):一部カテゴリで月間−30%超の下落(FT報道)。

    • 典型的影響:消費者価格上昇→小売在庫調整。

  • 工業用中間財(資本財・工業用原材料)

    • 前倒しの影響は限定的だが、導入後に調達コスト上昇・供給制約が見られ、輸入体積は−10〜30%の幅で変動。特に中国起源の部品は急減。リッチモンド連邦準備銀行(Richmond Fed)は産業ごとの依存度差を指摘している。

  • 自動車部品・完成車

    • 4月の急落で完成車輸入は一時−19%(報道事例)を観測。部品供給の混乱で自動車生産にも波及リスク。

  • 医薬品・医薬原料

    • 一部で前倒しの買いだめ観測あり(報道例では医薬品輸入の短期増加が示唆されるが、供給網の特性上劇的減少は限定的)。

平均的な実務面の観察(報道・分析からの総括)
  • 平均有効関税率(AETR):2025年中に従来約2.4%だったところから、6–12月にかけて実効レートが一時的に10%前後(ある月は11–12%程度)まで上昇したとBudget Labが報告。だが実効率は法定率より低めにとどまっている(月間で8–12%レンジの変動)。

  • 輸入行動の変化:輸入元のシフト(中国からベトナム等へシフト)や、輸入者の先行調達・在庫調整(front-loading)が短期の値動きに大きく寄与。リッチモンド連邦準備銀行(Richmond Fed)の解析によると、予測されていた大きな法定率と実際の実効率の差はこの行動による部分が大きい。


3)州別の移民流入・出国(退去)統計:主要傾向と州別注目点

完全な月次・州別のDHS/ICE詳細表は公的公開が遅延・再編されることがあるため、ここでは公表統計+NGO集計(ICE Flight Monitor等)+州メディア報道を組み合わせた「主要州の傾向」を示す。

全体傾向(2025年1月20日〜2025年9月の観察)
  • 移民人口の総数変化:一部報道と分析により、2025年中に米国の在留外国人人口が減少に転じたとの観測があり、CalMattersは「2025年6月時点で移民人口が約51.9百万に下がり、50年ぶりの減少」と報告している(在留者数推定の下落)。

  • 強制送還フライトの増加:ヒューマン・ライツ・ファースト(Human Rights First)のICE Flight Monitorは、2025年1月20日〜9月30日の期間で少なくとも8,877便の移送関連フライトを確認しており、連邦の移送活動が大幅に増加していると指摘している(この数には国内転送便や国外送還便を含む)。

州別の注目点(主要州)

注:下表は「州名 — 観測された主な動向(フライト数・拘束・メディア報告ベース)」の要約である。

  • テキサス(TX):国境州の中心で拘束および送還作業が集中。州当局と連邦の連携が増え、州内主要収容所での移動が目立つ。

  • カリフォルニア(CA):在留外国人が多く、退去措置の増加でコミュニティ影響が大きい。CalMattersは同州の移民人口減少の影響を報告。州政府と連邦の法的対立も頻発。

  • フロリダ(FL)/ニューヨーク(NY)/イリノイ(IL):大都市圏で法的支援・人権団体の活動が活発化し、移送や拘束のモニタリングが増えている。

労働市場への影響(州別の違い)
  • 農業・畜産が重要な州(カリフォルニア、テキサス等)では季節労働者の供給が圧迫され、収穫・処理に影響が出始めていると複数報道。サービス業での人手不足も主要都市で顕在化している。


4)主要裁判判決の抄録(要点整理)

ここでは移民関連で政権が採った「迅速送還(expanded expedited removal)」「特定法令適用(例:Alien Enemies Act 等)」をめぐる主要な裁判・判決の要旨を示す。

1. 連邦裁判所の一部措置差止め(例:Make the Road New York ほか)
  • 要旨:連邦裁判所は、行政による「速やかな送還」政策の一部について手続き保障の欠如を理由に差止め(preliminary injunction)を命じた。裁判所は、広範な集団に対して個別の手続的救済(裁判での審理やハベアス・コーパス等)の機会を剥奪することに慎重であるべきと判断した。

  • 影響:差止めにより当該区域では迅速送還措置の運用が停止・制限され、連邦政府は上訴あるいは代替的な法的根拠の提示を迫られている。

2. 最高裁の臨時差止め(Venezuelan migrants の事例)
  • 要旨:最高裁は一時的に、Alien Enemies Actを用いた特定ベネズエラ出身者の大量送還を差し止めた。最高裁は救済や通知義務に関する合理性を問題視し、救済の余地を残した。保守系判事の分裂意見も一部存在。

  • 影響:この判断は、戦時法や古い移送根拠の現代的適用についての司法的チェックを強調するもので、行政の強硬策に法的ブレーキをかける効果がある。

3. ワシントンD.C.地裁の一時差止め(Judge Jia Cobb の判断)
  • 要旨:DC連邦地裁は人道的パラオール等で入国した者を含む集団に対する拡大した速やか送還の適用はDHSの権限を越える可能性があるとして一時差止めを命じた。裁判所はDHSが法の範囲をどのように解釈しているか、個別の救済手続きが保障されているかを厳しくチェックした。

  • 影響:この判断は速やか送還の全国的運用に法的制約を与え、同種訴訟(ACLU等)の勝訴に繋がる例の一つとなった。


付録:データソース(主要参照)

  • Riksbank staff memo, “Macroeconomic effects of increased import tariffs” (2025).

  • PIIE(Peterson Institute)ブリーフ「The US Revenue Implications...」等(2025)。

  • Yale Budget Lab — “Short-Run Effects of 2025 Tariffs So Far” および “State of U.S. Tariffs” レポート(2025)。

  • IMF / World Bank の 2025 フォーキャスト・解説(Global Economic Outlook等)。

  • BEA, U.S. International Trade in Goods and Services(月次/四半期データ)。

  • U.S. Census Bureau, Foreign Trade (monthly release) / USITC DataWeb(HTS別データ)。

  • Richmond Fed, research briefs on tariff effects(2025)。

  • Human Rights First — ICE Flight Monitor(2025)/CalMatters の移民人口推計記事。
  • ACLU / 各種裁判報道(ACLUプレスリリース、Reuters, AP)。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします