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EUの「トレード・バズーカ」とは、トランプ政権の関税圧力に対抗

ACIはEUが2021年に提案し、2023年に正式に導入した規制で、経済的な強制や威圧的措置を行う第三国に対し、輸出入制限や対抗関税、外国直接投資の制限、公共調達市場への参加禁止など幅広い対策を講じられる枠組みを提供するものだ。
2026年1月21日/スイス、ダボスの世界経済フォーラム会場、トランプ米大統領(右)とNATOのルッテ事務総長(AP通信)

EUは米国との貿易関係における緊張が高まる中、独自の強力な対抗手段「トレード・バズーカ(強力な経済制裁)」を検討している。この用語は、正式名称を「反強制手段(Anti-Coercion Instrument:ACI)」という、他国による経済的圧力に対抗するための包括的措置を指すものであり、フランスのマクロン(Emmanuel Macron)大統領が発動を呼びかけている。今回の議論はトランプ(Donald Trump)大統領デンマーク自治領グリーンランドに関して欧州側が反対する中で追加関税の可能性を示唆したことを受けたもので、EU側はこの強制的な貿易措置への反発としてバズーカの活用を検討している。

ACIはEUが2021年に提案し、2023年に正式に導入した規制で、経済的な強制や威圧的措置を行う第三国に対し、輸出入制限や対抗関税、外国直接投資の制限、公共調達市場への参加禁止など幅広い対策を講じられる枠組みを提供するものだ。最も強硬な形では、EUの4億5000万人の消費市場へのアクセスを事実上閉ざすことも可能で、米企業や米国経済に数十億ドル規模の損失を与える可能性があるとしている。

そもそもACIが創設された背景には、中国がリトアニアとの関係をめぐり同国への貿易を制限した事例があり、EUはこのような経済的圧力を抑止する必要性を訴えていた。欧州委員会はACIについて「抑止が主な目的であり、実際に使用する必要がなくなることが成功の証となる」と説明しているが、今回の米国との対立は同機能を発動する可能性を現実のものとしつつある。

ただし、実際にACIを発動するにはプロセスに時間がかかり、概ね6カ月以上を要するとされる。発動にはまず欧州委員会が経済的強制の有無を審査し、加盟国の支持を得た上で対象国と協議を行い、協議が不調に終わった場合に対抗措置の実施へ進む必要がある。これまでACIは一度も発動しておらず、米国相手に適用されるのは前例のないケースとなる可能性がある。

EUと米国の貿易規模は非常に大きく、2024年の財・サービスの取引額は約1.7兆ユーロに上り、1日当たり平均約46億ユーロの取引がある。EUから米国への主な輸出品目は医薬品、自動車、航空機、化学品、医療機器、ワインなどであり、米国からEUへの主な輸入品目は専門的・科学的サービス、石油・ガス、医薬品、医療機器、航空関連製品、自動車などとなっている。この巨大な相互依存関係があるため、ACIの発動は両経済に大きな影響を及ぼす可能性がある。

EU内ではACIの使用に慎重な声も根強く、加盟27カ国の多くが慎重姿勢を示しているが、フランスのほか一部の加盟国は強硬な対応を求めている。EU首脳は緊急首脳会議を予定し、米国との関係悪化を回避しつつも、欧州の利益を守るための最適な戦略を議論する方針である。今後の協議次第では、EUと米国の間で貿易摩擦が一段と深刻化する可能性も指摘されている。

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