◎ヘルソン州は黒海とアゾフ海に面する交通・貿易の要衝のひとつで、ロシアが2014年に併合したクリミア半島のすぐ北に位置する。
ロシア軍に占領されたウクライナ南部へルソンでは、5月1日からロシア通貨ルーブルが導入される予定である。
しかし、ヘルソンのウクライナ人市長はこの地域の銀行システムにルーブルを突然導入することは不可能という見方を示している。
ロシア軍はヘルソン州の州都ヘルソンの新市長に親ロシア人を任命したが、市民はこれを却下し、占領に抗議する小規模なデモを続けている。
政府庁舎には親ロシアのシンボルである「Z」の旗やロシア国旗が掲げられ、テレビはウクライナではなくロシアのプロパガンダニュースに変更された。
ロイター通信などによると、市内の各地に設置された検問所には武装したロシア兵と戦車が配備され、重々しい空気に包まれているという。
英BBCニュースのオンラインインタビューに応じたヘルソンの住民は、「ルーブルが導入されれば、住民はここを離れると思う」と語った。「今のところ、市内にはまだ両替所があります。仮にルーブルで給料をもらっても、すぐフリヴニャ(ウクライナ通過)に両替します...」
ウクライナの国営メディアによると、ヘルソンの一部地域ではルーブルで年金が支給されたが、それを受け取った人々の多くがフリヴニャに両替したという。
ウクライナ当局によると、ヘルソンの住民の約40%が首都キーウなどに避難した。
ヘルソン州は黒海とアゾフ海に面する交通・貿易の要衝のひとつで、ロシアが2014年に併合したクリミア半島のすぐ北に位置する。同州の東に位置するマリウポリが陥落すれば、ロシアはドンバスのテロ国家(ドネツクとルガンスク)とクリミアを結ぶ陸上回廊を形成できる。
ロシアの国営メディアは今週、ロシア軍がヘルソン州に新政権を発足させたと報じた。
ゼレンスキー大統領は、ロシアが5月1日のルーブル導入に合わせてヘルソン州で「偽の独立住民投票」を行う可能性があると警告している。ゼレンスキー氏はヘルソンの住民にパスポートを含む個人情報をロシア軍に渡さないよう繰り返し呼びかけている。
ロシアは2014年のクリミア併合時にもクリミア、ドネツク、ルハンシクで独立住民投票を実施した。ただし、ロシア外務省は投票を否定し、ヘルソンの住民も今のところ、投票が行われるという兆候は確認できないとしている。
テレグラムなどのSNSでは何が起こるか分からないという噂が流れている。ロシアは住民の個人情報を利用して投票を行ったと主張し、勝手に独立を承認する可能性もある。
一方、ヘルソンの住民によると、他の安全な地域に移動するルートはロシア軍の管理下に置かれているため、避難は難しいという。BBCニュースの取材に応じた男性は、「クリミアに入るルートは通行可能だが、そこへの避難はロシア領に入ることを意味する」と述べ、クリミアへの避難はないとした。
この男性は検問所でロシア軍の尋問を受けた際、命の危険を感じたという。「まるで映画のようでした。炎天下でスーツケースの上に座らされ、尋問を受ける。まさか自分がこんな目に遭うとは思いもしませんでした。マシンガンを持った男たちが目の前をウロウロするので、とても怖かったです」
男性はイギリスの人気歌手デヴィッド・ボウイのタトゥーを入れていたため、危機に直面した。「そのタトゥーはアゾフか?と何回も聞かれました...」
ウクライナ軍の精鋭部隊「アゾフ連隊」はマリウポリなどでロシア軍と対峙している。
男性は検問所を何とか通過し、その後、ジョージアを経て安全な地域に移動した。
ロシア軍はヘルソンから出ようとした市民や人道物資を受け取った市民のパスポート番号を記録しているとされる。
プーチン大統領は対独戦勝記念日である5月9日にヘルソンを含む南東部の解放を宣言し、占領を正当化する可能性がある。
多くの専門家が「ロシアは独立住民投票を実施したと勝手に主張し、ヘルソンやザポリージャなどの独立を認め、ウクライナを分断する可能性が高い」と指摘している。
ヘルソンの西に位置するミコライウ州とオデーサ州が陥落すれば、ロシア軍高官が今週主張した東部ドンバスとモルドバの分離主義国家「沿ドニエストル」を結ぶ陸上回廊が完成する。
ただし、ロシア軍は南部地域に深く侵攻しつつあると主張する一方、西側当局は「ロシア軍はウクライナ軍の激しい抵抗に直面し、思うように前進できていない」という分析結果を示している。