SHARE:

イギリス検察、37歳男をシナゴーグ襲撃で起訴、体液塗り付けたか

過去10日間で7つのユダヤ人施設が標的となり、4つのシナゴーグには何らかの液体が塗りつけられた。
イギリス、ロンドンのシナゴーグ(Getty Images)

イギリス・ロンドン北西部にあるシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)やユダヤ人施設が相次いで襲撃された事件について、捜査当局は14日、宗教的動機による器物損壊の容疑で37歳の男が起訴されたと明らかにした。

警察によると、過去10日間で7つのユダヤ人施設が標的となり、4つのシナゴーグには何らかの液体が塗りつけられたという。

スカイニュースは情報筋の話しとして、「いくつかのシナゴーグに塗り付けられた液体は精液であった」と伝えている。

23年10にガザ紛争が始まって以来、イギリス全土で反ユダヤ主義が急増。24年には3500件以上の事件が記録された。

捜査当局は住所不定の男が人種的・宗教的動機による器物損壊罪6件、財産損壊罪3件、その他の罪で起訴されたと発表。被告は15日に出廷し、罪状認否を行う予定である。

ガザ紛争が始まって以降、イギリスでは「反ユダヤ主義」に関連する暴力や嫌がらせが急増している。その背景には、国際政治情勢と国内社会の複雑な要因が絡み合っている。

まず、ガザ紛争そのものが大きな引き金となっている。イスラエルによる軍事行動が世界的に注目されると、パレスチナ人への同情や怒りが各地で高まり、抗議活動が頻発した。イギリスでもロンドンを中心に大規模なデモが繰り返され、イスラエル批判が強まった。しかし、その一部がユダヤ人全体に向けられ、イスラエル国家とユダヤ人個人を同一視する形で反ユダヤ主義的言動や行動に転化した。ユダヤ人学校やシナゴーグが攻撃対象となり、街頭ではユダヤ人とみなされた人々への嫌がらせや暴力が報告されている。

次に、イギリスの社会構造と移民コミュニティの存在も影響している。イギリスには多くのイスラム教コミュニティがあり、その中にはパレスチナ問題に強い関心を持つ層が存在する。多くは平和的なデモや声を上げる活動に参加しているが、過激な一部はユダヤ人を直接的な「敵」とみなし、反ユダヤ的行動に走る傾向が見られる。また、SNS上で流布する過激な映像や情報が怒りを煽り、現実の差別や暴力を後押しする要因となっている。

さらに、イギリス社会にはもともと反ユダヤ主義が潜在的に存在していた。歴史的にユダヤ人は経済的・文化的に成功した少数派と見なされることが多く、不満や陰謀論の標的にされやすかった。特に経済危機や政治的混乱の時期には「ユダヤ人支配」や「金融を操る」といった古典的な偏見が再燃しやすい。ガザ紛争はそのような感情を再び表面化させる契機となった。

加えて、政治的言説やメディア報道も事態を複雑にしている。イスラエルへの支持か批判かをめぐって世論が二分される中、一部の政治家や活動家が過激な言葉を用いることで、反ユダヤ主義的な言説を正当化する雰囲気が広がった。こうした言葉が公共空間で容認されると、実際の暴力や嫌がらせを抑止する力が弱まる。

イギリスにおける反ユダヤ主義の急増は、ガザ紛争による国際的な緊張が国内社会の既存の分断や潜在的偏見を刺激し、政治・宗教・社会的要因が重なり合った結果である。短期的には紛争の激化が暴力の引き金となり、長期的にはイギリス社会に根強く残る偏見や移民社会の複雑さが事態を深刻化させている。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします