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イギリス警察、ロシア諜報機関支援の疑いで3人逮捕

2022年2月にロシアがウクライナへ全面侵攻を開始して以降、イギリスとロシアの関係は冷戦期を想起させるほどに険悪なものとなった。
イギリス、ロンドンの在ロシア大使館(Getty Images)

ロンドン警視庁は18日、ロシアの情報機関を支援した疑いで3人を逮捕したと明らかにした。

それによると、捜査官はロンドン東部のエセックス州で41歳と46歳の男2人と35歳の女1人を逮捕したという。

容疑は国家安全保障法違反。同法は2年前に施行され、外国からの脅威に対処するとしている。

ロンドン警視庁のテロ対策部門は声明で、「最近の国家安全保障に関する事件の処理を通じて、外国の諜報機関によって採用される、いわゆる”代理人”と呼ばれるスパイがますます増えていることを認識している」と述べた。

2022年2月にロシアがウクライナへ全面侵攻を開始して以降、イギリスとロシアの関係は冷戦期を想起させるほどに険悪なものとなった。両国の関係はそれ以前から悪化傾向にあった。とくに2006年の元FSB職員毒殺事件、2018年の元二重スパイ、スクリパリ親子に対する暗殺未遂事件などを通じて、イギリスはロシアを「ならず者国家」として警戒してきた。22年以降の全面侵攻はイギリス政府にとってロシアを明確な脅威と位置づける決定的な転機となった。

侵攻開始直後から、イギリスは米国やEU諸国と並んで最も強硬にロシア制裁を主導した。資産凍結、銀行の国際決済システムSWIFTからの排除、輸出入の規制といった経済制裁に加え、ロンドンに集まっていたロシアの富豪層、いわゆる「オリガルヒ」に対しても厳格な資産凍結と不動産差し押さえを実施した。ロンドンは長年、ロシア資金が集まる拠点となっていたが、イギリス政府はこの状況を逆手にとり、オリガルヒを締め上げることでプーチン政権に圧力を加えようとした。

軍事支援の面でも、イギリスは欧州諸国の中で際立って積極的だった。侵攻初期からウクライナに対して対戦車ミサイル「NLAW」を供与し、ウクライナ軍が首都キーウ防衛に成功するうえで大きな役割を果たしたとされる。その後も長射程兵器、対空システム、無人機、戦車「チャレンジャー2」などを段階的に供与し、米国とともにウクライナ軍近代化の中心的な後ろ盾となった。また、ウクライナ兵の訓練プログラム「インターフレックス作戦」をイギリス国内で実施し、数万人規模の兵士を教育したことは、ロシアにとって極めて敵対的な行為と映った。

外交的な側面では、ジョンソン首相(当時)は侵攻直後からキーウを訪問し、ゼレンスキー大統領との連帯を強調した。これは西側諸国の首脳の中でも最も早い訪問の一つであり、イギリスが政治的にも軍事的にもウクライナ支援の先頭に立つというメッセージを世界に発した。以降のスナク政権もその路線を継承し、超党派で対ロ強硬姿勢が固まっている。

一方でロシア側は、イギリスを「対露敵視の急先鋒」として非難し、外交関係を極端に縮小させた。ロシアはイギリスの外交官を国外追放し、ロシア国内でのイギリス系NGOや報道機関の活動を制限した。また、ロシア政府の公式声明では、イギリスは米国に次ぐ「主要な挑発者」と繰り返し名指しされ、サイバー攻撃やスパイ活動の拡大も相互に疑われている。

さらに2023年以降、イギリスは黒海やバルト海でのNATO活動を積極的に主導し、ロシア海軍や空軍との緊張も高まった。英空軍はロシア爆撃機の接近に対するスクランブルを繰り返し、英海軍は黒海周辺で航行の自由作戦を展開してロシア側を刺激した。ロシア国防省はイギリスを直接的な「交戦当事者」と見なす発言を強め、軍事的偶発衝突のリスクが一層高まっている。

また、ロシアによる欧州全域へのエネルギー圧力が強まるなかで、イギリスは北海のエネルギー開発や液化天然ガス(LNG)の輸入拡大を通じてロシア依存を最小化しようとした。EU離脱後のイギリスは大陸諸国ほどロシア産天然ガスに依存していなかったが、それでも電力価格や燃料価格の高騰は国民生活に大きな影響を及ぼした。イギリス政府はこれを逆に利用し、ロシアとの「エネルギー戦争」を国民に訴えることで、国内の結束を高める手段とした。

情報戦の側面でも対立は激化した。イギリスの情報機関MI6や政府通信本部(GCHQ)は、ロシアの偽情報工作を繰り返し暴露し、プーチン政権のプロパガンダに対抗する姿勢を強調した。ロシア側はこれを逆に「英米による世論操作」と批判し、両国間の相互不信は深まる一方となった。

22年以降のイギリスとロシアの関係は、外交的接触のほとんどが途絶し、経済・軍事・情報のあらゆる分野で「事実上の対立関係」と化している。イギリスはウクライナ戦争の帰趨を自国の安全保障と欧州秩序の存続に直結するものと捉え、今後もロシアへの強硬路線を維持するだろう。ロシアにとっても、イギリスはもはや単なる西側諸国の一国ではなく、米国に次ぐ敵対的な存在として認識されている。このため両国関係が短期間で改善する可能性は極めて低く、戦争の長期化に伴って対立はさらに固定化していくと見られる。

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