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アイルランドでEU・メルコスール貿易交渉に抗議するデモ

農家たちはトラクターを連ねてデモ行進を行い、安価な輸入農産物がもたらす国内農業への打撃を懸念して強い不満と怒りを示した。
2026年1月10日/アイルランド、EU・メルコスール自由貿易協定に反対するデモ(ロイター通信)

アイルランド中部アスローンで10日、数千人の農民がEUと南米南部共同市場(メルコスール)との間で進められている自由貿易交渉に反対する抗議デモを展開した。農家たちはトラクターを連ねてデモ行進を行い、安価な輸入農産物がもたらす国内農業への打撃を懸念して強い不満と怒りを示した。

この抗議はEUの執行機関である欧州委員会が同協定に対して暫定的な承認を与えた直後に発生したもので、アイルランド政府や国内の農業団体、政治勢力からも懸念が表明されている。デモにはアイルランド農民協会(IFA)をはじめとする農業組織、独立系政党の支持者や国会議員も参加。「農場を守れ」「農民を犠牲にするな」といったプラカードが掲げられた。

参加した農民の1人はロイター通信の取材に対し、現在でも厳しい生産基準や高コストのもとで経営を維持しているとし、「輸入される牛肉や農産物がEUの環境・安全基準に適合していない可能性がある」として不安を語った。また別の農家は、「この協定はアイルランドの農業を壊滅させる恐れがある」と訴え、農業が地方経済の基盤である同国にとって将来の展望を危うくすると主張した。

EU側は自由貿易協定が双方の経済利益につながるとしているが、農民側は特にブラジルなどからの低価格牛肉の流入が市場価格を押し下げることを懸念している。協定では一部牛肉の輸入関税が引き下げられる見込みで、最大約9万9千トンもの南米産牛肉がEU市場に入る可能性があるとの指摘もある。これにより、既に生産コストの高い欧州の農家が競争力を失うとの危機感が高まっている。

またアイルランド政府は、協定に十分な安全策や環境保護・食の安全基準の確保が盛り込まれていないとして反対の立場を示している。首相を含む閣僚らは交渉は依然として不十分であり、農業セクターへの影響を最小化するための追加的な保障が必要だと述べている。

今回の抗議はポーランドやフランス、ベルギーなど他のEU加盟国での類似した農民デモに続くものであり、EU内で貿易自由化に農業コミュニティが強い懸念を持っていることを示している。フランスでは同様にトラクターが市街地に繰り出すなど、農民の反対運動が各地で激しさを増している。

今後、この自由貿易協定は欧州議会での承認が必要となるが、採決は予断を許さない情勢である。アイルランドやフランスの一部政治勢力は協定を阻止するための活動を強化していく方針であり、農民運動も継続される能性が高い。

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