スイス国民投票、女性の兵役義務化と超富裕層課税を反対多数で否決
今回の投票結果はスイス国民が制度変更に慎重であること、また伝統的な低課税・分権財政と、義務の拡大や富裕層への重税という急進的な政策への抵抗感が根強いことを示した。
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スイスで11月30日、国民投票が行われ、二つの重要な提案が圧倒的反対多数で否決された。
ひとつは男女を問わず兵役または公共サービスの義務化を求める「市民サービス(citizen service)構想」、もうひとつは、相続・贈与で5000万スイスフラン(約97億円)を超える超富裕層への一律50%の国家税導入案である。
スイスでは若い男性に対して兵役または民間防衛サービスが義務づけられており、現在も女性に対しては任意で参加可能という制度がとられている。提案は、この義務をすべての国民に拡大するというものであった。
構想の支持者は、軍事だけでなく、自然災害対策・環境保全・食糧安全保障・高齢者ケアなど、さまざまな分野で公共サービスに若者を動員することで「社会の結束と国の危機対応力」を高められると主張していた。
しかし投票の結果、この案は圧倒的な反対多数となり、有権者の84%超が反対。26あるいずれの州でも賛成の得票はほとんどなかった。
反対理由としては、まず「義務」化によるコストの増大や労働市場から若者が一時的に離脱することで経済に悪影響が出る可能性が挙げられた。また、女性への追加的負担、とりわけ既に育児・介護・家事など無償での家庭内労働を担うことが多い女性層にとって、公的サービス義務は不公平との指摘もあった。
次に相続・贈与税案について、提案者はこの「超富裕層課税」による収益を気候変動対策や脱炭素化に充てることを目的としていた。提案を主導したのは若年社会民主派(Youth Socialists, JUSO)で、「超富裕層は多くの資産を相続しており、負担能力も大きいため、公平な負担を課すべきだ」という理念に立っていた。
しかし、こちらも否決、有権者の78%以上が反対を示した。反対論者は、このような高率な相続税は富裕層の国外移住を促す可能性があると警告。また、スイスの伝統的な分権財政や低課税政策に反するとの懸念が多数あった。
支持者はいずれの構想も「社会の連帯」「気候危機への対応」「将来世代への責任」という観点から意義があると訴えていた。一方で、政府および多くの議員、経済関係者は既存の制度で十分であること、過度の負担やコストが新たな問題を生む恐れを理由に、反対を強めていた。
今回の投票結果はスイス国民が制度変更に慎重であること、また伝統的な低課税・分権財政と、義務の拡大や富裕層への重税という急進的な政策への抵抗感が根強いことを示した。
国の安全保障論や気候政策の議論は世界的に活発だが、有権者の間では、こうした価値よりも「安定」「現状維持」「過剰な国の関与への警戒」が優先されたようだ。
