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独ベルリンで送電鉄塔に放火、5万世帯停電、米テスラ社が標的か

米電気自動車(EV)大手テスラへの攻撃を企てる集団が関与している可能性がある。
ドイツの送電鉄塔(Getty Images)

ドイツ・ベルリン南東部で送電鉄塔2基に火が放たれ、同市内の約5万世帯が停電した。現地メディアが9日に報じた。

ベルリン警察の報道官は記者会見で、「政治的動機も排除できない」と述べ、政治的動機による犯罪捜査を専門とする特別部門が捜査を主導していると説明した。

ドイツ通信社(dpa)は治安筋の話しとして、「米電気自動車(EV)大手テスラへの攻撃を企てる集団が関与している可能性がある」と報じている。

テスラは以前、この地域にEV開発センターを建設する計画を公表していた。

報道によると、当局は2024年に発生した同様の事件と類似点が多いことを念頭に捜査を進めているという。この事件では送電線の真下で炎が上がり、電線が損傷。ベルリン郊外のテスラ工場が数日間にわたって生産を停止した。

ベルリン警察の報道官は送電鉄塔への放火とテスラのセンター建設計画の関連について問われると、「否定はできない」と答えた。

ドイツを含む欧州諸国においてテスラへの不買運動や嫌がらせが頻発している背景には、マスク(Elon Musk)CEOの政治的発言や行動が大きく影響している。

テスラはこれまで「環境に優しい先進的ブランド」として欧州市場でも高い人気を得てきたが、近年その評価は急速に揺らいでいる。

まず直接の契機となったのは、マスク氏が米国の政治だけでなく欧州政治にも積極的に関与する姿勢を見せたことである。

特にドイツでは極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に理解を示した発言が波紋を呼んだ。欧州の多くの市民はファシズムや排外主義に敏感であり、環境や多様性を重視する価値観を持つ層がテスラの主要顧客であったため、この姿勢は強い反発を招いた。

またマスク氏がトランプ(Donald Trump)大統領を支持する動きを見せたことも、欧州の自由主義的な世論と対立した。

こうした流れの中で各国に不買運動が広がった。ポーランドではマスク氏が「祖父母の罪を子孫に負わせるべきではない」と発言したことがホロコーストの記念日と重なり、大きな不快感を生んだ。

政府関係者が「普通のポーランド人はもはやテスラを買うべきでない」と公言し、市民運動に発展した。

ドイツ、フランス、オランダ、イギリス、アイルランドなどでも「Tesla Takedown」と呼ばれる抗議デモが行われ、販売店やショールーム前で「ファシストに金を渡すな」「ナチスの車は買うな」といった強烈なスローガンが掲げられた。

抗議は単なる言論や消費者運動にとどまらず、一部では過激な嫌がらせや破壊行為に発展した。ローマではテスラの販売店が放火され、十数台の車両が焼失した。

ドイツやフランスでも店舗の落書きや嫌がらせ行為が相次ぎ、治安当局が対応に追われた。これはマスク氏個人への反発がテスラ車という象徴に向けられた結果であり、企業ブランドと経営者の政治的姿勢が直結してしまった事例といえる。

経済的影響も顕著に現れている。2025年初頭、欧州におけるテスラの販売は急減し、1月には前年同月比で約45%減、2月も40%超の減少を記録した。ドイツでは6割近い落ち込み、フランスや北欧諸国でも大幅減となった。

欧州のEV市場全体は成長を続けているにもかかわらず、テスラのみが急速にシェアを失っている点は特徴的である。春以降も下落傾向は続き、5月時点での市場シェアは1%台に低下、中国のBYDや欧州メーカーに押される形となった。

ブランド調査でも、ドイツやイギリスで消費者の7割以上がマスク氏に否定的な印象を持っているとされ、製品そのものの性能とは無関係にイメージ悪化が購買意欲を削いでいる。

この現象の核心は、テスラが「政治的に中立な革新企業」という立場を失った点にある。欧州の消費者は環境意識やリベラルな価値観を重んじる層が多く、マスク氏の言動はそれに真っ向から反するものと受け止められた。

結果として企業ブランドと経営者の個人的な政治的姿勢が不可分に結びつき、製品評価に直接影響を及ぼしたのである。

一方で、不買運動の過激化には問題点も存在する。本来消費者の選択で表現されるべき抗議が、放火や破壊といった犯罪行為に転じており、公共の秩序を乱す側面が指摘されている。

またテスラの従業員や販売代理店は経営者の政治的姿勢に直接関与していないにもかかわらず、標的となっている点も課題である。

しかし現状を見る限り、テスラが欧州市場で信頼を回復するのは容易ではない。単なる販売戦略の変更や新型車投入だけでなく、企業として政治的中立性を保つ姿勢を明確に示す必要がある。

マスク氏の個人的発言が企業全体に影響を及ぼす状況を是正しなければ、欧州市場での立て直しは難しいだろう。

結局のところ、欧州におけるテスラ不買運動の経緯は経営者の政治的発言が消費者心理や市場に直結することを示す典型的な事例である。

EV市場が拡大を続ける中で、テスラは技術や製品力の課題以上に「企業イメージの政治化」という問題に直面している。この状況を打開できなければ、欧州での地位はさらに低下し、中国や欧州メーカーに主導権を奪われる可能性が高い。

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