SHARE:

セルビア当局、欧州諸国で「不安定化工作」に関与した11人逮捕

容疑者たちはフランス・パリのイスラム教施設外に豚の頭部を設置するなどの行為に関与したとされる。
2023年12月24日/セルビア、首都ベオグラードの市庁舎前、暴徒を取り締まる機動隊(AP通信)

セルビアの捜査当局は9月30日、外国の諜報機関の指示に基づき欧州各国で人種差別を扇動した疑いとして、11人を逮捕したと発表した。

容疑者たちはフランス・パリのイスラム教施設外に豚の頭部を設置するなどの行為に関与したとされる。

セルビア警察は29日の声明で、「この犯罪グループは今年4月から9月にかけて、フランスとドイツで発生した事件に関与したとみられ、捜査を進めている」と述べていた。

当局によると、外国の諜報機関からの指示で行動したとされる首謀者の1人は依然逃亡中だ。

当局はどの国の諜報機関が関与したか明らかにしていない。フランス当局は今月初め、パリ近郊のモスク付近に豚の頭が置かれた行為について、「人種差別を扇動し、暴力やヘイトクライムを煽る行為」と説明していた。

フランス当局も国名を挙げていないが、この事件は過去にフランスやウクライナの同盟国を標的としたロシア関連と疑われる不安定化工作の試みと共通する特徴を有していた。

2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以降、ロシアは軍事行動にとどまらず、欧州諸国に対しても多様な工作やハイブリッド攻撃を仕掛けている。これらの活動は、政治的不安の醸成、社会の分断、欧州の対ウクライナ支援を弱体化させることを目的として行われており、サイバー攻撃、偽情報拡散、スパイ活動、破壊工作、移民の政治的利用などが含まれる。

サイバー領域では、政府機関や重要インフラを標的とした攻撃が増加している。たとえば、ポーランドやバルト三国、ドイツなどでは、ロシアと関係のあるハッカー集団によるDDoS攻撃や情報窃取が確認されている。これに加え、電力網や通信インフラに対するサイバー攻撃によって混乱を引き起こす試みも行われている。

偽情報やプロパガンダの拡散も主要な手段である。SNSやニュースサイトを通じて、欧州各国におけるウクライナ難民への反感を煽ったり、NATOやEUへの不信感を増大させたりする情報が拡散されている。特に選挙期間中には、候補者に対する偽情報や分断的な論調を流布することで、民主的プロセスを妨害する意図が明白である。

また、ロシアは移民問題を地政学的手段として利用している。ベラルーシと協調して、中東やアフリカからの移民を意図的にポーランドやリトアニア国境に送り込み、欧州社会の混乱を誘発する戦術が用いられている。これは「武器化された移民」とも呼ばれ、ロシアによるハイブリッド戦の典型例である。

さらに、実行犯による直接的な破壊工作や放火事件も一部で発生している。例えばドイツやスウェーデンでは、軍事支援物資の供給拠点やインフラを狙った事件が発生しており、これらの背後にロシア情報機関の関与が指摘されている。

こうしたハイブリッド攻撃は、直接的な軍事衝突を避けながらも欧州の結束や安定を揺るがす意図がある。ロシアは従来の軍事力だけでなく、情報・経済・心理戦を統合した新しい戦争形態を用いて、西側諸国の内部からの崩壊を狙っているといえる。欧州諸国は法的枠組みの整備やインフラ防衛、情報リテラシー教育などを通じて、こうした脅威への対抗を進めているが、ロシアの不安定化工作は今後も継続・進化する可能性が高い。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします