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ポーランド軍、ウクライナ国境地域の防空体制強化

ポーランド政府は10日、ロシア軍がウクライナ西部を中心に大規模な空爆を実施している最中に19の物体が領空に侵入し、脅威をもたらしたため、撃墜したと発表した。
2025年9月10日/ポーランド東部のウクライナ国境近く、ロシア軍のドローンを運ぶ当局者(AP通信)

ポーランドおよび同盟国の航空機が13日、ウクライナ国境からのロシア・ドローンによる領空侵犯を受け、ポーランド領空における予防的な作戦を開始した。これにより、ウクライナ国境に近いポーランド東部の空港が閉鎖された。

ポーランド政府は10日、ロシア軍がウクライナ西部を中心に大規模な空爆を実施している最中に19の物体が領空に侵入し、脅威をもたらしたため、撃墜したと発表した。

NATO加盟国の領内にロシアのドローンが侵入したのは初めてではないが、戦闘機がそれを撃墜したのは初めである。

ポーランド軍参謀本部は13日午後、X(旧ツイッター)への投稿で、「地上配備型防空・偵察システムが最高警戒態勢にある」と投稿。「これは予防的な措置であり、ポーランド領空の安全の確保と国民保護を目的としている」と強調した

また参謀本部はこの措置について、ウクライナ領内におけるドローン攻撃の脅威を理由に挙げたが、詳細は説明しなかった。

トゥスク(Donald Tusk)首相も声明を出し、「ウクライナ国境エリアで活動するロシア製ドローンの脅威を理由に、ポーランド領空で予防的航空作戦を開始した」と投稿した。

航空当局はこの措置を受け、東部にあるルブリン空港を閉鎖すると発表。政府は複数の自治体に対し、「ロシア軍による空襲の脅威がある」と警告した。

NATOとロシアの緊張激化の経緯

2022年2月24日、ロシアがウクライナに対して全面的な軍事侵攻を開始した。この出来事は冷戦後最大の安全保障上の危機と見なされ、西側諸国に大きな衝撃を与えた。NATOにとって、加盟国のすぐ隣で大規模な戦争が勃発したことは、冷戦期の東西対立を想起させる事態であり、組織としての存在意義を再確認する契機ともなった。その後の約3年間で、NATOとロシアの緊張関係は軍事、外交、経済、情報戦といったあらゆる分野で拡大していった。

初期段階:侵攻と制裁、NATOの即応体制強化

侵攻直後、NATOは直ちに加盟国東部における防衛態勢を強化した。ポーランド、バルト三国、ルーマニアなどロシアやウクライナに近接する加盟国に対して、多国籍の戦闘部隊を追加配備し、空軍・海軍のパトロールも拡大した。これはロシア軍がウクライナに留まらずNATO領土に侵入する可能性を排除できないという懸念に基づく措置であった。

同時に、NATO加盟国はEUやG7と連携してロシアに対する大規模な経済制裁を導入した。金融機関の排除、エネルギー分野の取引制限、軍事技術の輸出禁止などが含まれ、ロシア経済を長期的に弱体化させることを目的とした。ロシア側はこれを「西側の経済戦争」と位置付け、対抗措置として欧州への天然ガス供給を削減するなどの手段を取った。

2022年後半:兵器供与と「代理戦争」論

戦争が長期化する中で、NATO加盟国はウクライナへの軍事支援を段階的に強化した。最初は携行型の対戦車ミサイルや対空ミサイル、防弾チョッキや医療物資といった防御的装備に限られていたが、次第に榴弾砲や多連装ロケットシステム、戦車、防空システムといった重装備の供与へと拡大した。特に米国、イギリス、ドイツ、ポーランドが主要な供与国となり、兵站支援や訓練も並行して行われた。

ロシアはこれを「NATOによる代理戦争」と強く非難した。プーチン大統領は繰り返し「西側はロシアを戦略的に包囲し、弱体化させようとしている」と主張し、核兵器使用を示唆する発言を行った。これにより、冷戦以来最も深刻な核の脅威が欧州に再び現れることとなった。

2023年:戦局の膠着とNATOの拡大

2023年に入ると、戦争は前線で膠着状態に陥ったが、NATOとロシアの対立はむしろ拡大した。その象徴的出来事が、スウェーデンとフィンランドの加盟申請である。両国は従来、中立政策を維持してきたが、ロシアの侵攻を受けて安全保障上の脅威を強く感じ、NATO加盟を決断した。フィンランドは2023年4月に正式加盟し、スウェーデンも2024年に手続きを完了した。これにより、NATOとロシアの国境は1300キロ以上にわたり直接接することとなり、モスクワにとって戦略環境は大きく変化した。

NATOはこの動きを歓迎し、東欧・北欧地域の防衛計画を再編成した。対するロシアは、バルト海や北極圏での軍事プレゼンスを強化し、カリーニングラードに核兵器を再配備する可能性を示唆するなど、緊張はさらに高まった。

2024年:米欧の支援疲れとロシアの持久戦戦略

戦争が長期化する中で、米国や欧州諸国の一部では「支援疲れ」が表面化した。特に米国では政権交代や国内政治の分断が影響し、ウクライナ支援の継続に対する議会内の対立が深まった。欧州でもインフレやエネルギー価格高騰が市民生活を圧迫し、「自国の負担を減らすべきだ」との声が強まった。ロシアはこれを好機と捉え、長期戦で西側の結束を崩そうとした。実際、NATO内部でも支援の速度や規模をめぐって意見の相違が目立ち始め、加盟国間の調整は難航した。

一方で、NATOは組織全体としては結束を維持し、2024年のワシントンサミットでは「ロシアの脅威は存続しており、抑止と防衛のための強化は不可欠である」との方針を再確認した。

情報戦とサイバー戦の激化

物理的な戦争に加え、情報戦やサイバー戦もNATOとロシアの対立の重要な舞台となった。ロシアは欧米諸国に対して偽情報やプロパガンダを拡散し、社会的分断を煽る活動を強化した。NATO加盟国はこれに対抗するため、サイバー防衛機構を強化し、偽情報対策を共同で進めた。これらの動きは冷戦期の「宣伝戦」の現代版とも言える様相を呈している。

今後の展望

2022年以降の経緯を総合すると、NATOとロシアの緊張は短期的に収束する兆しが見えない。ロシアはウクライナでの戦略的勝利を追求し続け、西側はそれを許さない構えを堅持している。NATOの拡大はモスクワの安全保障観にとって最大の挑戦であり、ロシアはこれを容認する姿勢を見せていない。

さらに、戦争が続く限り、欧州の軍拡は加速し、冷戦後の「軍縮と協調」という潮流は完全に逆転した。核兵器の役割も再び強調されるようになり、危機管理の枠組みが失われつつある。NATOとロシアの間には、誤算や偶発的衝突のリスクが常に存在しており、その意味で緊張関係は慢性的かつ構造的なものとなった。


結論

2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻は、NATOとロシアの関係を決定的に悪化させた。NATOは加盟国防衛を強化し、ウクライナ支援を進め、フィンランドやスウェーデンを迎え入れることで組織としての結束を示した。一方ロシアはこれを脅威と受け止め、軍事的・外交的に強硬な姿勢を続けている。その結果、欧州は再び東西対立の構図に戻り、冷戦後30年で築かれた協調的安全保障体制は崩壊した。今後も緊張は長期化し、国際秩序に深刻な影響を及ぼし続けると見込まれる。

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