マジックマッシュルームをうつ病治療に活用?イギリスで議論続く
サイロシビン(Psilocybin)はマジックマッシュルームに含まれる天然の幻覚成分。体内で活性化されてセロトニンに似た作用をし、幻覚や幸福感、神秘体験を引き起こす。
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イギリスで「マジックマッシュルーム(幻覚作用を起こすきのこの俗称)」の主成分であるサイロシビンを、国民保健サービス(NHS)が抑うつ症状の治療に使うべきかどうかを巡る議論が活発化している。サイロシビンは幻覚作用を持つ精神活性物質であり、現在の英国法では研究目的以外での使用は違法だが、うつ病やPTSD(心的外傷後ストレス障害)、依存症などへの効果が示唆される研究結果が相次いで示されている。
サイロシビン(Psilocybin)はマジックマッシュルームに含まれる天然の幻覚成分。体内で活性化されてセロトニンに似た作用をし、幻覚や幸福感、神秘体験を引き起こす。
この議論の背景には、サイロシビンを臨床的に使用した患者の体験談がある。ある元女優は若年期に重いうつ状態に陥り、一般的な抗うつ薬が効果を示さなかったが、臨床管理下での微量サイロシビン投与と心理療法によって劇的な改善が見られたと語る。一方で、別の研究者は、若い頃のLSD体験が強い不安やPTSDにつながったと述べ、幻覚剤のリスクも強く指摘されている。
現在、サイロシビンを含む精神活性薬の医療利用は承認された研究や臨床試験のみで許可されており、通常の医療行為としては扱われていない。2022年以降、うつ病やPTSD、依存症に対する20以上の臨床試験が世界で実施されており、大半の試験では一定の効果が認められているものの、効果が不明瞭な結果や利益が見られないケースもある。米英のデータはまだ出揃っておらず、イギリスの医薬品規制当局は最終判断のために進行中の試験データを待っている状況だ。
医学界の評価は分かれている。精神薬理学委員会は、サイロシビン治療には「潜在的な可能性があるが、実際の医療現場で使えるようにするには、より大規模で厳密な研究が必要」と慎重な立場を示す。他方で、サイケデリック治療の支持者らは、現行の抗うつ剤が十分な効果を示さない患者が多い現状を踏まえ、「新たな治療オプションとして可能性がある」と主張している。
英国王立精神医学会はサイロシビンなどの幻覚剤について、安全性や有効性に関する慎重な評価が必要とした報告書を2025年9月に公表している。また、医療現場以外での自己投与は重大な健康リスクを伴うと警告している。
これらの議論は、規制の壁と臨床エビデンスの不足という二つの課題が絡み合っている。幻覚剤は現在「医療価値がない薬物」として最も厳しい管理下にあり、研究用ライセンスの取得にも多くの時間とコストがかかる。支持者らは、障害となる規制を緩和し、より多くの臨床研究とデータ収集を可能にすべきだと訴える。
サイロシビンを用いた治療が安全かつ効果的であると証明されれば、NHSでの採用が現実味を帯びる可能性もある。しかし、効果の科学的裏付けと安全性の確保が不可欠であり、現在進行中の研究結果が今後の政策判断に大きく影響すると見られている。
