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NATOの新たな軍事任務「アークティック・セントリー」始動

アークティック・セントリー構想が打ち出された背景には、ロシアの軍事活動の活発化や中国の北極圏への関心の高まりといった地政学的な変化があるとNATO側は指摘する。
2026年1月16日/デンマーク自治領グリーンランド、軍司令部センター前を歩くデンマーク兵(AP通信)

北大西洋条約機構(NATO)は11日、新たな軍事任務「アークティック・セントリー(Arctic Sentry)」を立ち上げ、北極圏および北欧地域の安全保障を強化すると発表した。これは戦闘任務ではなく、加盟国が実施する軍事演習などを統合的に管理し、地域の脅威に対応するための枠組みとして位置づけられている。今回の発表はトランプ(Donald Trump)大統領がデンマーク自治領グリーンランドの買収や併合をめぐってNATO内の緊張を高めてから約1カ月後のことであり、NATOが内部対立を乗り越え共同の安全保障課題に取り組む意図が示された。

アークティック・セントリーはデンマークが主導する「アークティック・エンデュランス(Arctic Endurance)」やノルウェーの「コールド・レスポンス(Cold Response)」といった加盟国独自の軍事演習をNATO名義で統一的に扱う枠組みとして始動する。これらの演習も軍事作戦ではなく、国ごとの訓練・準備活動だが、NATO全体として初めて北極圏における活動を一元的に管理し、潜在的な安全保障上の「ギャップ」を評価する狙いがあるという。NATOのルッテ(Mark Rutte)事務総長は記者団に対し、「北極圏で行うすべての活動を1つの指揮下に置くのは今回が初めてだ。それによって埋めなければならない安全保障の隙間を評価できる」と説明した。

また、米空軍も声明を出し、アークティック・セントリーが「同盟国を守り、世界でも戦略的に重要かつ環境面で厳しい地域の安定を維持するという同盟の約束を体現する」と述べた。具体的な常設部隊の配備は伴わないものの、同盟全体として北極圏の警戒と協調を強めることが目的だとしている。

イギリスはこの枠組みへの貢献として、ノルウェーへの部隊展開数を3年間で現在の1000人から2000人に倍増させる計画を発表した。追加される部隊の一部は9月に実施が予定されている「ライオン・プロテクター(Exercise Lion Protector)」に参加する見込みである。このほかフランス、ドイツ、デンマークも参加を表明し、今後さらなる加盟国の参加が見込まれているが、具体的な規模や兵力については明らかにされていない。

アークティック・セントリー構想が打ち出された背景には、ロシアの軍事活動の活発化や中国の北極圏への関心の高まりといった地政学的な変化があるとNATO側は指摘する。北極圏は気候変動による氷河の縮小で航路や資源へのアクセスが増す見通しであり、戦略的価値が高まる一方で、安全保障上の課題も顕在化している。NATO加盟国のうち7カ国が北極・北欧地域に位置し、ロシアもこの地域に軍事力を投入している。こうした情勢に対応するため、同盟として共同の活動基盤を整備する必要性が高まっているという。

Aアークティック・セントリーの発足は、トランプ政権下で高まったグリーンランドをめぐる対立を踏まえつつ、加盟国間の協調を再確認し、共通の安全保障優先課題に集中する試みでもある。欧州の加盟国はこの構想と併行して米国、デンマーク、グリーンランド政府との三者間協議を進め、外交的な緊張を和らげ、安全保障の課題であるロシアのウクライナ侵攻への対応に重点を置くことを目指している。

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