NATOの「ロシア抑止力」に打撃、大西洋を挟んだ内輪もめ
トランプ氏は繰り返し、デンマーク自治領グリーンランドの取得構想を示唆し、同盟内で波紋を呼んだ。
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NATO(北大西洋条約機構)の対ロシア抑止力が、大西洋を隔てた加盟国間の内紛によって大きく損なわれつつあるとの懸念が高まっている。欧州の同盟国やカナダはウクライナ支援や自国防衛のため巨額の資金を投入し、国防予算の大幅増額も約束しているが、32カ国から成る軍事同盟の統一した信頼感が過去1年で揺らいでいる。
最大の焦点となっているのは、トランプ(nald Trump)米大統領の発言や行動が引き起こした摩擦だ。トランプ氏は繰り返し、デンマーク自治領グリーンランドの取得構想を示唆し、同盟内で波紋を呼んだ。グリーンランドはデンマークの半自治地域であり、NATO加盟国の領土であるにもかかわらず、トランプ氏の発言は同盟内の信頼関係を損ねたとの批判が強まった。また、アフガニスタン紛争で死亡した同盟兵士に対する軽率な発言も、複数の加盟国から反発を招いた。
この内紛は単なる言葉のやり取りにとどまらず、同盟としての抑止力そのものに影を落としているとの分析がある。専門家はロシアのプーチン(Vladimir Putin)大統領がNATOの団結に疑念を抱くような兆候が表れていると指摘し、同盟への信頼低下が敵対国にとって好機と映る可能性を危惧している。ロシア外相もこれらの対立を「NATOの深刻な危機」と位置づける発言を行い、緊張をあおっている。
NATO加盟国は長年、集団防衛義務を定めた第5条を基軸に、いずれかの加盟国が攻撃を受けた場合は全加盟国が応じるという約束で結束してきた。この仕組みこそがロシアを含む潜在的な敵対勢力に対する効果的な抑止力として機能してきた。しかし、内部の疑念や不信感が広がることで、この強固な政治的誓約の有効性が問われる局面に直面している。
トランプ政権下で欧州諸国とカナダは2025年7月、防衛費を国内総生産(GDP)の5%に引き上げることを合意し、2035年までに米国と匹敵する防衛力を整える方針を打ち出した。これはトランプ氏による同盟批判の力を弱める狙いもあったとされるが、理念的な結束とは別に、現実の軍事的信頼感回復には時間を要するとの見方が多い。
こうした状況下で、NATO内部の不一致はロシア側にも注目されている。EUの外交政策責任者はロシアが今後も長期的に重大な安全保障上の脅威であり続けるとの認識を示し、サイバー攻撃やインフラ破壊、情報工作、軍事的威嚇といったさまざまな手法を通じた圧力が続いていると指摘している。
一方、NATO事務総長は加盟国の防衛予算増額と装備強化を強調し、組織の軍事力は過去にないほど強化されたと語るものの、内部統制を維持しつつ米国の役割を確実にするための調整が依然として課題となっている。
このように、NATOの抑止戦略は加盟国内の政治的緊張や外部の安全保障環境と密接に絡み合い、今後の運用や同盟の結束が対抗勢力への明確なメッセージとなるかどうかが問われている。
