ポルトガルの住宅団地で「SDGs」壁画プロジェクト、地区の誇りに
こうしたプロジェクトは単に街並みを飾るだけではなく、地域に暮らす多様な人々が共有する価値観や物語を浮かび上がらせ、人々の結束や誇りを育む手段となっている。
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ポルトガル・リスボン近郊の住宅団地で巨大な壁画を通じて国連の持続可能な開発目標(SDGs)を表現する芸術プロジェクトが進んでおり、地域に新たな誇りと注目をもたらしている。
このプロジェクトが展開されているのはリスボン近郊のザンブジャル地区。壁画は複数ある5階建て公営住宅の外壁に描かれており、その住民たちの暮らしや歴史、希望を反映させながら、SDGsの理念、貧困の撲滅、飢餓の終わり、働きがいのある仕事、持続可能な都市づくりなどを可視化している。
ある壁画「No Poverty(貧困をなくそう)」は黒人女性が白人女性の髪を丁寧に編んでいる様子を描き、人種や背景の違いを乗り越えた家族や共同体の絆を象徴している。
「No Hunger(飢餓を終わらせよう)」では、地元の女性が子どもたちに自分の家庭菜園を見せ、食べ物がどこからくるのかを伝えている。こうした日常の情景を通じて、困難な過去や貧しさを乗り越えてきた人々の回復力と希望を描き出している。
このプロジェクトは地域住民主体で始められたもので、2つの団体が運営にあたる。参加者の中には、これまで壁に絵を描いたことのない人も多く、「地域の物語を知り、住民の声を聞き、SDGsをこの地の現実に結びつける」という狙いで制作が進められた。
出来上がった壁画群はオープンエアのギャラリーとして機能し、地元の子どもたちや学校、外国からの学生グループがツアーで訪れるようになっている。訪問者には、作品の背景にある住民それぞれのストーリーや地域の歴史、多様性、そして将来への希望が解説される。こうした取り組みによって、かつて“見過ごされていた”地域に目が向けられ、地域への帰属意識や誇りが高まっている。
住民の女性はAP通信の取材に対し、「この地域が多くの人の目を引くようになり、訪問者も増えた。完璧ではないけれど、少しずつ状況は良くなっている」と述べ、壁画による変化を歓迎した。
こうしたプロジェクトは単に街並みを飾るだけではなく、地域に暮らす多様な人々が共有する価値観や物語を浮かび上がらせ、人々の結束や誇りを育む手段となっている。さらに、それらを国際的な枠組みであるSDGsと結びつけることで、「この地域もグローバルな持続可能性のビジョンの一部である」と宣言しているのである。
今後、このような地域主導のアートと社会課題の融合が、他の都市部や貧困地域にも広がる可能性がある。壁画を通じて「暮らし」「共同体」「未来」の物語を描き出すこの試みは地域再生と社会包摂の新たなモデルとして注目されるだろう。
