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モルドバ野党、政府のエネルギー非常事態宣言を批判


モルドバはエネルギー供給の多くを国外に依存し、特にウクライナ経由のインフラに大きく依存している。
モルドバのサンドゥ大統領(AP通信)

モルドバで発令されたエネルギー分野の非常事態宣言を巡り、野党勢力がその必要性に疑問を呈し、政府に対する批判を強めている。これは隣国ウクライナでのロシア軍による攻撃で送電インフラが損傷したことを受けて導入されたが、復旧の速さを踏まえ、政治的意図を指摘する声が広がっている。

発端となったのは、ルーマニアからモルドバへ電力を供給する超高圧送電線の停止である。この送電線はウクライナ領内を40キロ通過し、同国の電力需要の最大約7割を担う基幹インフラである。モルドバ政府はロシアによるウクライナへの攻撃が原因で送電が途絶したと説明し、迅速な意思決定を可能にするため、議会に非常事態の承認を求めた。議会は60日間の非常事態を賛成多数で可決したが、野党・社会党や共産党はこれに反対した。

エネルギー省によると、送電線は攻撃から4日後に復旧した。このため野党は、非常事態の発令は過剰であり、実際には政治的パフォーマンスに過ぎないと批判している。親ロシア系野党は今回の措置を「見せかけ」に過ぎないと非難し、即時解除とともに、非常権限がどのように行使されたのか説明を求めた。また、首都キシナウの市長も同調し、非常事態の延長ではなく市民生活の支援策を優先すべきだと主張した。

一方、親EU路線を掲げるムンテアヌ(Alexandru Munteanu)首相は今回の対応について、正当かつ必要だったと強調する。ムンテアヌ氏は危機的状況において、通常の議会手続きを経ず迅速に政策を実行できる枠組みが不可欠だったと説明している。実際、非常事態の下では政府が議会承認なしに一定の措置を講じることが可能となり、電力供給の確保や代替手段の手配を迅速に進めることができた。また議会議長も、送電線への攻撃を「戦争犯罪」と非難し、ロシアの行動がモルドバの安全保障に直接的な脅威を与えていると指摘した。

モルドバはエネルギー供給の多くを国外に依存し、特にウクライナ経由のインフラに大きく依存している。そのため、ウクライナ戦争の影響を強く受けやすい構造的な脆弱性を抱えている。今回の事案でも、送電線の停止により最大で数百メガワット規模の電力不足が発生し、大規模停電の可能性も指摘されていた。

こうした中で、国内政治の対立も一層鮮明になっている。サンドゥ(Maia Sandu)大統領はEU加盟を目指す親欧州路線を推進し、ロシアが国内の不安定化を図っていると非難している。一方、野党は政権が対ロシア姿勢を強めることで国民生活を犠牲にしていると反発し、両者の溝は深い。ロシア側はサンドゥ政権が反ロシア感情を煽っていると批判し、介入の意図を否定している。

今回の非常事態を巡る論争は単なるエネルギー危機対応にとどまらず、モルドバの進路をめぐる政治的対立を浮き彫りにしている。送電線が短期間で復旧したことで緊急性は後退したものの、政府の判断の妥当性や権限行使の透明性を巡る議論は今後も続く見通しである。同時に、国外インフラに依存するエネルギー構造の脆弱性と、ウクライナ戦争が小国の政治・経済に与える影響の大きさも改めて示された形となった。

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