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ドイツ地方選、与党が最多得票、極右AfDも支持延ばす

反移民・反イスラムを推進するAfDは旧共産圏の経済的に恵まれない東部で強いが、今回の結果は西部でも勢力を拡大していることを浮き彫りにした。
2025年9月15日/ドイツの極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」のワイデル党首ら(ロイター通信)

ドイツの最大都市である西部ノルトライン・ウェストファーレン州で15日、州議会選と市長選が行われ、与党・キリスト教民主同盟(CDU)が最多得票を獲得した。

現地メディアによると、メルツ政権発足後初の地方選挙における最大の勝者は極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」であった。

選挙管理委員会によると、CDUの得票率は33.3%、連立パートナーである社会民主党は22.1%にとどまった。

両党とも前回2020年の選挙よりわずかに得票率を落とした。一方、AfDは14.5%を獲得し、前回から9.4ポイント増となった。

反移民・反イスラムを推進するAfDは旧共産圏の経済的に恵まれない東部で強いが、今回の結果は西部でも勢力を拡大していることを浮き彫りにした。

今年2月に行われた連邦議会選挙におけるAfDの得票率は20.8%、最大の野党となった。ノルトライン・ウェストファーレン州の得票率は16.8%であった。

AfDのワイデル(Alice Weidel)党首は15日、この結果を「大成功」と称賛した。

AfDは2013年に創設された比較的新しい政党であり、現在はドイツにおける極右勢力の中核を担っている。発足当初はユーロ危機をめぐる批判政党として生まれたが、その後の難民危機を契機に路線を大きく右傾化させ、現在では反移民、反イスラム、EU懐疑、ナショナリズムを強く掲げる政党として定着している。

1. 創設の経緯

AfDは2013年に設立された。当時のドイツでは、欧州債務危機の影響でギリシャなどへの財政支援が議論を呼んでおり、AfDは「ドイツ国民が他国の債務を負担するのは不公平だ」と主張した。設立当初のAfDは「反ユーロ」を掲げる学者や経済人によるエリート的な政党であり、極右的な性格はまだ薄かった。しかし連邦議会選挙では議席獲得に至らず、一定の支持を得ながらも限界が見え始めていた。

2. 難民危機と転機

2015年、シリア内戦や中東情勢の悪化によりヨーロッパへ大量の難民が流入すると、ドイツはメルケル首相のもとで「受け入れ政策」を推進した。これに対し国内では治安不安や社会負担への懸念が高まり、AfDは反移民・反イスラムを前面に打ち出すことで国民の不満を吸収した。この時期を境に党の路線は大きく変化し、ユーロ問題よりもアイデンティティ政治や文化的ナショナリズムに重点を置くようになった。

特に「イスラムはドイツに属さない」というスローガンは注目を集め、モスク建設反対、イスラム服装の禁止、国境管理強化などが主要な政策となった。これによりAfDは全国レベルでの支持を急速に拡大し、2017年の連邦議会選挙で初めて大きな議席を獲得して第3党に躍進した。

3. 支持基盤と地域差

AfDの支持は旧東ドイツ地域で特に強い。社会主義体制崩壊後も経済的格差が残り、失業や賃金格差に苦しむ地域では、既存政党への不信感が根強い。また移民が少ない地域ほど「移民流入による文化的脅威」が強調されやすく、AfDの反移民政策が支持を集めた。ザクセン州やテューリンゲン州ではAfDが第1党となることもあり、地方議会で強い影響力を持っている。

一方、西ドイツや大都市部では支持は比較的弱く、特に高学歴層やリベラル層からは忌避される傾向がある。この地域差はドイツ社会の東西分断を改めて浮き彫りにしている。

4. 党内対立と過激化

AfDは成立から現在まで、党内の路線をめぐる対立を繰り返してきた。設立者のルッケ氏や中道派は2015年以降に離脱し、その後はワイデル氏といった強硬派が台頭した。党内には「ドイツのための翼(Der Flügel)」と呼ばれる過激派グループも存在し、ナショナリズムを超えて極右思想に接近しているとして、憲法擁護庁から監視対象とされている。

こうした過激化は一定の有権者には強く訴求する一方、全国的な政権獲得の可能性を遠ざけてもいる。他党は一貫してAfDとの連立を拒否しており、ドイツ政治における「孤立した極右政党」という位置づけが続いている。

5. 政治的影響

AfDの存在はドイツ政治の議論を大きく変えている。特に移民政策、治安、文化的アイデンティティの分野で、伝統的保守政党CDU/CSUもより厳格な政策を打ち出す圧力を受けるようになった。また、環境政策やエネルギー転換に対しても「庶民の生活を圧迫するエリート政策」と批判し、反エリート・反体制の立場を強調している。

一方で、AfDの急進的な言動は民主主義の基盤を脅かすとして強い批判も浴びている。極右的言説が政治の場で公然と語られることで、社会の分断や排外的感情が増幅される懸念がある。

6. 今後の展望

AfDの将来はドイツ社会における移民問題や経済格差がどの程度深刻化するかに左右される。治安や移民政策への不満が高まれば党勢拡大の余地は大きいが、過激化が進みすぎれば監視や規制が強化され、政治的孤立が深まる可能性もある。

また、2020年代以降は気候変動政策への反発や農村部の経済的疎外感も取り込みつつあり、単なる「反移民政党」から「包括的な反エリート政党」へと進化する可能性がある。その場合、既存政党が国民の不満をどの程度吸収できるかがドイツ政治の安定性を左右するだろう。


結論

AfDは経済危機を背景に生まれ、難民危機を契機に極右的民族主義へと転換した政党である。旧東ドイツを中心に強固な支持を持ち、移民や文化的アイデンティティをめぐる不満を代弁する存在となっている。しかし、過激化と排外主義は他党からの孤立を招き、政権への道を遠ざけている。今後もAfDはドイツ政治において「政権は担えないが議論の重心を右に動かす存在」として影響を及ぼし続けると見られる。

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