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ロンドンで反移民集会、11万人参加、小競り合いも

イギリスでは20世紀以降、移民の増加が社会構造や政治状況に大きな影響を与えてきた。
2025年9月13日/イギリス、ロンドン市内、反移民派の抗議デモ(AP通信)

イギリス・ロンドン市内で13日、極右活動家が主催する反移民デモが行われ、10万人以上が参加した。

現地メディアによると、一部の暴徒と機動隊が衝突し、少なくとも9人が逮捕されたという。

デモ隊は「移民は帰れ」「イングランドに来るな」「汚い」などと叫び、フランスからボートでイギリスに渡る移民を追放するよう求めた。

ロンドン警視庁によると、「王国を団結させよ」と名付けられた集会周辺で警察官数人が殴られたという。ヘルメットとシールドを装備した増援部隊が現場に配備されていた1000人以上の警察官を支援するため投入され、暴徒を抑え込んだ。

この結果、少なくとも9人が逮捕され、警察は他にも暴動に関与した者がいるとして、捜査を継続中。責任を追及すると宣言した。

警察は約11万人が集まったと推定。これに対抗する親移民派の集会の参加者は約5千人と報告されている。

イギリスでは20世紀以降、移民の増加が社会構造や政治状況に大きな影響を与えてきた。その中で、移民受け入れに積極的な「親移民派」と、移民が国内の労働市場や社会制度に負担を与えると主張する「反移民派」との対立が長く続いている。この対立は単なる意見の違いにとどまらず、国家アイデンティティ、経済政策、EUとの関係など多方面にわたる深刻な政治問題へと発展してきた。

まず、イギリスにおける移民の歴史を振り返る必要がある。第2次世界大戦後、イギリスは深刻な労働力不足に直面し、旧植民地であるカリブ海地域や南アジアから大量の移民を受け入れた。特に「ウィンドラッシュ世代」と呼ばれるカリブ系移民は、戦後復興と公共サービスを支える重要な労働力となった。しかし同時に、彼らに対する差別や排外主義も強まり、移民を社会不安の源とみなす言説が広がった。この時期からすでに反移民的な感情は存在しており、極右勢力や保守派メディアを中心に、移民を「伝統的イギリス社会を脅かす存在」と描く風潮が現れた。

1970年代から1980年代にかけては、経済不況や失業率の上昇が移民批判をさらに強めた。工場閉鎖や産業構造の変化で労働市場が縮小する中、移民が低賃金労働を奪っているとの見方が広がり、社会的緊張が高まった。この頃には「国民戦線(National Front)」のような極右政党が反移民を旗印に勢力を拡大し、都市部では移民コミュニティと白人住民の対立が暴動にまで発展することもあった。

1990年代から2000年代にかけては、EUの拡大が新たな移民問題を生み出した。特に2004年の東欧諸国のEU加盟により、ポーランドやルーマニアなどから大量の移民労働者がイギリスに流入した。ブレア政権は労働市場を比較的自由に開放したため、数十万人規模の移民が短期間で流入し、建設業やサービス業などで重要な役割を果たした。しかし一方で、地方都市や労働者階級の間では「移民が社会保障を食いつぶしている」「賃金を押し下げている」といった不満が高まり、反移民感情が再び強まった。

この時期、移民を支持する側は「多文化主義」「多様性の尊重」を掲げ、移民の労働力が経済成長に不可欠であることを強調した。特にロンドンのような大都市では移民が経済や文化を活性化させているとの評価が高く、国際都市としての地位を維持する上で移民は不可欠だとする考えが主流だった。しかし地方や低所得層の間ではその恩恵を実感できず、格差意識と不満が反移民派の拡大につながった。

2010年代に入ると、移民問題はEU離脱(ブレグジット)をめぐる議論と直結するようになった。離脱派は「移民流入をコントロールできないのはEUのせいだ」と主張し、国境管理権を取り戻すことを訴えた。これに対し残留派は、移民がイギリス経済に貢献している事実を挙げ、離脱による経済的損失の方が大きいと反論した。2016年の国民投票では、反移民感情を背景に離脱派が勝利し、移民問題はブレグジット実現の最大の推進力となった。

しかしブレグジット後も移民をめぐる対立は収束していない。EUからの移民は減少したが、その代わりにアジアやアフリカからの移民が増加しており、社会保障や住宅、教育への負担が引き続き議論されている。さらに、難民や亡命希望者の流入も政治的な争点となり、英仏間のドーバー海峡を渡る移民ボート問題は国際的な注目を集めている。

親移民派は現在も「移民がNHS(国民保健サービス)や運輸、介護といった分野で不可欠な労働力となっている」ことを強調し、人口減少と高齢化が進む中で移民の存在は国家維持に欠かせないと主張している。一方で反移民派は「移民は同化せずにコミュニティを分断している」「犯罪や治安悪化の原因となっている」と訴え、移民制限や厳格な国境管理を求め続けている。

結局のところ、イギリスにおける反移民派と親移民派の対立は経済格差、地域間の分断、アイデンティティの問題、そしてグローバル化に対する受け止め方の違いに根差している。大都市では移民が歓迎されやすく、地方や労働者階級の間では排斥感情が強いという構図は今も変わらない。この対立は単なる政策論争ではなく、イギリス社会の分断を象徴する深刻な問題として今後も続くとみられている。

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