NATO戦闘機、バルト海上空でロシア偵察機を追跡
2022年2月にロシアがウクライナへ全面侵攻を開始して以降、ロシア軍による戦闘機やドローンの活動はウクライナ周辺地域にとどまらず、しばしばEU加盟国の領空に接近、あるいは侵犯する事態へと拡大している。
.jpg)
ドイツとスウェーデンの空軍戦闘機が21日、バルト海上空を未確認状態で飛行していたロシアの偵察機を追跡するため緊急発進した。現地メディアが報じた。
それによると、スウェーデン空軍のグリペン2機とドイツ空軍のユーロファイター2機が国際空域に展開し、ロシアのIL-20偵察機を監視・撮影。同機は飛行経路の申告や存在を示す無線連絡なしに飛行していたという。
監視活動は無事終了。NATO及びEU加盟国は自国空域内外におけるロシア軍の軍事・偵察活動に対し警戒態勢を強化している。
エストニア外務省によると、19日にロシア戦闘機3機がエストニア領空に侵入。12分間とどまった。
先週にはNATO機がポーランド上空でロシアのドローンを撃墜した。
2022年2月にロシアがウクライナへ全面侵攻を開始して以降、ロシア軍による戦闘機やドローンの活動はウクライナ周辺地域にとどまらず、しばしばEU加盟国の領空に接近、あるいは侵犯する事態へと拡大している。その背景には、ロシアがウクライナ支援に積極的な欧州諸国を牽制する狙いと、戦闘行動に伴う偶発的な越境の双方が絡み合っている。
まず象徴的なのは、侵攻直後から頻発したポーランドやルーマニアへの接近飛行である。これらの国はNATOの最前線として米欧から兵站や武器が送り込まれる経路となっており、ロシアは領空近くでの飛行を通じて「供給ルートを常時監視している」と誇示した。また、黒海やバルト海での軍事行動が活発化した結果、エストニアやリトアニアなどの上空にもロシア戦闘機が一時的に侵入する事例が増えた。こうした動きはNATO加盟国の防空システムを試す「意図的侵犯」と解釈されている。
一方で、ウクライナを攻撃するために放たれたミサイルやドローンが制御を失い、隣接するEU加盟国に流れ込むケースも少なくない。2022年11月にはポーランド南部の集落にミサイルが着弾し、民間人2人が死亡した。この事件は当初ロシア軍の攻撃と疑われ、NATOとロシアの直接衝突の危険性が一気に高まった。その後、ウクライナ防空ミサイルが原因とされるとの見方が有力となったが、戦火が国境付近に近づけば容易に「越境被害」が発生し得ることを示した事例だった。また2023年以降、イラン製ドローン「シャヘド」などがウクライナ西部で迎撃され、その残骸がルーマニアやモルドバの領土に落下する事態が何度も報告された。
ロシア側にとって領空侵犯は偶発だけでなく、政治的メッセージの側面も強い。バルト三国やフィンランドはロシアにとって地政学的に敏感な地域であり、2022年以降フィンランドのNATO加盟が現実化すると、ロシアは戦闘機を頻繁に国境線近くまで飛行させ、その一部はフィンランド領空に入ったと報告された。これはNATO拡大に対する強い不満と威嚇の意思表示とみなされている。また、スウェーデンが加盟申請を行った時期にも、ロシア爆撃機がスウェーデン領空を侵犯する事例が確認され、加盟支持世論への心理的圧力と解釈された。
EUおよびNATOはこうした侵犯に対して即応体制を強化した。ポーランドやルーマニアには米軍戦闘機が増派され、バルト三国上空では「バルト空域警備任務」によって常時複数国の戦闘機がロシア機を迎撃できる態勢が整えられた。結果として、ロシア機が領空に近づくと、すぐにNATO戦闘機がスクランブル発進する光景が常態化している。だが頻度の高さは偶発的衝突のリスクを高めており、冷戦時代さながらの「空のにらみ合い」が復活している。
ロシアによるEU加盟国への領空侵犯は軍事作戦の波及、意図的な挑発、偶発的事故の三要素が重なって発生している。ウクライナ侵攻が長期化するにつれ、欧州の防空網はかつてないほど緊張を強いられており、ひとつの越境事案が全面的なNATO対ロシア衝突に発展しかねない状況が続いているのである。