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フランス社会党、新政権に大幅な予算譲歩を要求、協議続く

フランスの財政状況は経済規模の大きさと社会保障制度の充実度に伴い、複雑かつ課題が山積している状態にある。
2025年9月17日/フランス、パリの首相府、ルコルニュ首相(AP通信)

フランスの野党・社会党は17日、ルコルニュ(Sebastien Lecornu)首相に対し、大幅な予算譲歩を求め、富裕層を打ち負かすよう迫った。

マクロン(Emmanuel Macron)大統領は先週、ルコルニュ氏を首相に任命し、26年度予算案について、政党間の合意形成を直ちに図るよう指示した。

少数与党を率いるルコルニュ氏は野党の支持を必要としている。

フランス社会党は2017年のマクロン氏当選以来、窓際に追いやられてきたが、今や大きなチャンスを迎えている。

ルコルニュ氏は現在、予算案への支持を得るため、幅広い政党指導者と会談を重ねている。

社会党のフォール(Olivier Faure)党首はルコルニュ氏との会談に先立ち、「我々の要求には厳しい予算削減の終了、富裕層への課税、購買力の向上が含まれる」と記者団に語った。

フォール氏はルコルニュ氏との会談後、「うまくいった。今後数日間で彼が何と言うか見守ろう。彼が我々の意見に耳を傾ける意思がないなら、我々は彼を非難するだろう」と述べた。

国民議会(下院、定数577)は先週、バイル(Francois Bayrou)前首相の信任決議案を反対多数で否決。これにより、9ヵ月前に発足したバイル政権は崩壊し、マクロン氏は新たな首相を任命するか、議会を解散するかの選択を迫られていた。

バイル氏は債務抑制のために公共支出を大幅に削減すべきだという自身の見解を野党議員も支持すると信じたが、賭けは失敗に終わった。

フランスの財政状況は経済規模の大きさと社会保障制度の充実度に伴い、複雑かつ課題が山積している状態にある。フランスはユーロ圏内でドイツに次ぐ経済規模を持つ国であり、国内総生産(GDP)は2020年代中盤時点で約3兆ユーロに達している。しかし財政面では歳入と歳出のバランスが長年にわたり課題となっており、累積財政赤字や公的債務の増大が持続的な懸念材料となっている。

フランスの歳出構造を見ると、社会保障費の比重が極めて大きいことが特徴である。年金、医療、失業保険、住宅支援、教育補助など、幅広い分野に対する公的支出が国民総支出の約55%を占め、ユーロ圏でもトップクラスの社会保障支出国家となっている。この充実した社会保障制度は国民生活の安定や格差縮小に寄与してきたが、少子高齢化や医療費の増加によって財政負担は年々増大している。特に年金制度は現役世代の負担で高齢者の年金を賄う賦課方式であるため、人口構造の変化によって持続可能性が危ぶまれている。

一方で歳入面では、所得税や法人税、付加価値税(VAT)が主要な財源となる。フランスは高福祉国家であることから、税率は比較的高く設定されており、個人所得税や社会保障負担率もEU諸国の中で上位に位置する。しかし、法人税率の引き下げや税制優遇策の導入により、財政収入の伸び悩みや富裕層の租税回避が問題となっている。さらに、新型コロナウイルスの影響で経済活動が停滞したことで、2020年以降の歳入不足と歳出増加が重なり、財政赤字はGDP比で約9%前後に達した。

累積債務も深刻である。フランス政府の公的債務はGDP比で約110%に達しており、EU加盟国の中でも高水準である。債務の多くは国債発行によって賄われており、利払い費用も財政支出の重要な部分を占める。金利環境が低位にあるため当面は持ちこたえているものの、金利上昇や経済停滞が同時に起こると、財政健全化の余地は限られる。こうした状況に対応するため、フランス政府は歳出削減、歳入増加、構造改革を組み合わせた中長期的な財政戦略を模索している。

政治的観点からも、財政改革は容易ではない。社会保障費や年金改革に関する政策は労働組合や市民の反発を招きやすく、政府は度々大規模なデモやストライキに直面してきた。2019年の年金改革案に対する全国規模の抗議行動はその典型例であり、政策の実行には政治的調整と社会的合意形成が不可欠である。加えて、EUの財政規律や安定成長協定(SGP)に基づく制約も考慮しなければならず、国内事情と国際的規範の間で微妙なバランスを取る必要がある。

また、近年の課題として環境・気候変動対策に伴う財政負担が増大している。フランス政府は再生可能エネルギーの導入や温室効果ガス排出削減を推進しており、これに関連する補助金や税制措置が財政支出を押し上げる要因となっている。同時に、デジタル経済の拡大や国際競争力維持のために企業支援策を講じる必要があり、歳出の効率化と優先順位付けが重要課題となっている。

フランスの財政状況は高福祉国家としての支出構造、累積債務の高さ、少子高齢化による持続可能性の懸念、経済成長の鈍化、そして社会的・政治的制約の複合的要因によって特徴づけられる。政府は、歳出削減、歳入拡大、構造改革、環境投資の最適化を通じて財政健全化を図ろうとしているが、労働組合や市民社会との調整、EU規制との整合性、経済成長との両立など、多くの課題を抱えている。今後も財政健全性の維持と社会保障制度の持続可能性の確保が、フランス経済の安定と国民生活の安定に直結する重要課題であり、政策判断の難易度は極めて高いといえる。

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