スーパーマーケット広告に登場する狼が世界中の視聴者の心を動かす
この物語は一見すると子ども向けの寓話のようだが、視聴者の多くはオオカミの自己変革の旅路に、自身の孤独感や居場所を求める心理を重ねていると語る。
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フランスのスーパーマーケットのクリスマス広告に登場するオオカミの物語が世界中の視聴者の心を動かしている。この広告「Unloved(仏語タイトルLe mal aimé)」はフランスの大手スーパー「インターマルシェ(Intermarché)」のために制作された約2分30秒の短編映像で、オオカミが孤独や恐れを乗り越え、他者とのつながりを求める姿を描いている。公開から数日で世界中で何億回もの視聴回数を記録し、ファンアートや称賛の声、感動の投稿が相次いでいる。
映像は人間の子どもがクリスマスに物語を聞いて心を癒される場面から始まり、森の中で他の動物たちから怖がられ避けられていたオオカミが、自らの在り方を変える決断をする物語が展開する。狩りをやめて野菜を調理し、クリスマスの宴に手料理を持って参加することで、次第に友情と受容を得ていくという内容で、優しいタッチのアニメーションによって描かれている。
この物語は一見すると子ども向けの寓話のようだが、視聴者の多くはオオカミの自己変革の旅路に、自身の孤独感や居場所を求める心理を重ねていると語る。広告を制作したクリエイティブエージェンシー「ロマンス(Romance)」は「自己改善を目指す者の変容の物語であり、多くの人に共鳴する」と述べている。
この広告が特異なのは、昨今の多くのデジタル広告がAI(人工知能)を用いる中で、完全に人間の手で制作された点だ。専門家は視聴者がこの映像に感情的な反応を示している理由について、「AIでは生み出せない人間らしさ」にあると指摘する。また、制作には数か月を費やし、アニメーターやアーティストが一つ一つの動きや表情を丹念に作り込んだという。
映像の核心はフランスのポップソング「Le mal aimé(クロード・フランソワ)」の使用によって強調されており、この楽曲のストリーミング再生数も急増している。広告の意図は単に食品を売ることに留まらず、分断が進む世界で人々をつなぐ普遍的なメッセージを伝えることにあるという。オオカミが外部者から歓迎される存在になる様子は、アルゴリズムによって分断されがちな現代社会における共感への渇望を象徴している。
視聴者は欧米からアジアに至るまでSNSで字幕付きのバージョンを共有し、映像を評価する反応を投稿している。一部の視聴者はこの2分余りの広告を長編映画に拡張してほしいとの声も上がっており、ただの「広告」を超えた文化的現象として受け取られている。
こうした反響は2025年のホリデーシーズン広告の中でも異例の影響力を示しており、スペクタクルではなく人間味ある物語への渇望を反映している。
