欧州で原子力発電への関心高まる、イラン戦争でエネルギー危機再燃
欧州ではエネルギー安全保障の強化と脱炭素化の両立を目指し、原子力エネルギーの再評価が進んでいる。
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欧州は現在、米イラン戦争によるエネルギー供給の混乱と価格高騰という新たな衝撃に直面している。ガスや燃料価格の急騰は家庭や企業に重い負担を強い、特に輸入に依存する欧州連合(EU)加盟国ではエネルギー安全保障の脆弱性が改めて浮き彫りになっている。このような状況を受けて、かつては縮小傾向にあった原子力発電への関心が再び高まっている。
EUの執行機関である欧州委員会のフォンデアライエン(Ursula von der Leyen)委員長は最近、フランス・パリで開かれた原子力エネルギーサミットで、過去に原子力発電の割合を大きく減らしたことは「戦略的な誤り」であったと述べた。1990年代には欧州全体の電力量の約3分の1が原子力で賄われていたが、現在では15%程度にまで低下し、化石燃料の高価格・供給不安に対して脆弱な状態になっていると指摘する。
このようなエネルギー市場の混乱は、2022年のロシアによるウクライナ侵攻後に欧州が経験した価格高騰と似た構図を想起させる。ガス依存度の高さが経済成長を圧迫し、消費者負担を増大させてきた欧州では、今回の中東情勢の悪化が加わることで、エネルギー政策全般の見直しが急務となっている。
原子力の復権を求める声はEU全域だけでなくイギリスでも聞かれる。イギリス議会では原子力プロジェクトの規制を簡素化し、新設計の原子炉を促進する動きが進んでいる。また、スコットランドでは原子力をエネルギーミックスの一部として支持する国民の割合が増加しているという調査結果も報じられている。
フランスは欧州内で最も原子力発電に依存している国であり、総電力量の約65%を原子力で供給している。このため電力価格は他国より低く抑えられ、他国への電力輸出も増えている。マクロン(Emmanuel Macron)大統領は原子力発電について、エネルギー主権と脱炭素化の両立を可能にする重要な選択肢だと強調している。
一方で、原子力発電を巡る議論には慎重な声も根強い。原子炉の建設や再稼働には非常に長い時間がかかることが多く、今回のエネルギー危機の短期的な解決策とはなり得ないという見方がある。また、廃棄物処理や安全性に対する一般市民の懸念、投資資金の制約など、克服すべき課題も多い。
さらに、原子力をめぐる欧州内の政治的な温度差も存在する。例えばドイツは2011年の福島第一原発事故を受けて原子力廃止を進めてきたが、その結果として電力基盤を天然ガスに依存せざるを得なくなり、エネルギー安全保障の観点から政策の再考を求める声が政府内から出ている。
技術革新の面では、小型モジュール炉(SMR)と呼ばれる新しい原子炉技術への期待が高まっている。これらは従来型の原発に比べて建設期間が短く、コストも抑制できる可能性があり、EUはSMRを普及させるための投資プログラムを策定している。しかし、商業規模での実証はまだ十分進んでおらず、実際の普及には時間がかかる見込みだ。
このように、欧州ではエネルギー安全保障の強化と脱炭素化の両立を目指し、原子力エネルギーの再評価が進んでいる。しかし、原子力が直ちにエネルギー危機の解決策になるわけではないことは明白であり、再生可能エネルギーの強化や効率的なエネルギー利用策と組み合わせた総合的な政策が求められている。欧州のエネルギー政策の転換は今後の世界的なエネルギー・環境戦略にも大きな影響を与える可能性がある。
