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欧州当局「ドローン壁」構築で合意、領空侵犯相次ぐ、ロシアを念頭に

欧州諸国の国境や空港では身元不明のドローンが相次いで確認され、航空機の運航に支障が出る事態となっている。
ドローン(Getty Images)

欧州の国防相らは26日、ロシアとウクライナとの国境沿いに「ドローン壁(防御システム)」を構築し、欧州の空域を侵犯するドローンの検知・追跡・迎撃能力を強化することで合意した。

欧州諸国の国境や空港では身元不明のドローンが相次いで確認され、航空機の運航に支障が出る事態となっている。

その一部にはロシアが関与していた。

EUの執行機関である欧州委員会のクビリュス(Andrius Kubilius)氏は東欧10カ国とのオンライン会議で議長を務めた後、声明で、「ロシアはEUとNATOを試している。我々の対応は断固として、団結し、即座でなければならない」と述べた。この会議にはウクライナとNATOの当局者も参加した。

クビリュス氏によると、ドローン防御システムの構築には1年ほどかかる見通しで、各国の実務者がまもなく会合を開き、今後の詳細な構想および技術的なロードマップを策定する予定。

クビリュス氏は声明の中で、「最優先事項は効果的な探知システムである」と強調した。

このシステムは来週コペンハーゲンで開催されるEU首脳会議と、10月にブリュッセルで開催される会議でも議論される見通し。クビリュス氏は欧州の防衛産業もこの計画に参加すると述べている。

2022年2月にロシアがウクライナへの全面侵攻を開始して以降、欧州各国は直接的な軍事攻撃を受けていないものの、ロシアによるドローンの越境やハイブリッド攻撃とみられる行為が増加している。特にバルト三国やポーランド、ルーマニアなど、ウクライナと地理的・政治的に近い国々では、その傾向が顕著である。

ロシアのドローンによる欧州領空の侵犯は、偵察や威嚇、通信妨害を目的として行われているとされ、NATO加盟国の領空で確認された事例もある。例えば、2023年にはロシア製とみられるドローンがポーランドやルーマニアの領空に侵入し、一部は墜落して物理的な損害をもたらした。これらのドローンはウクライナ領内への攻撃中に航路を逸れた可能性も指摘されているが、意図的な越境とみられるケースもあり、NATO側は警戒を強めている。

一方で、ロシアは軍事手段に加えて、サイバー攻撃や偽情報の拡散、エネルギー供給の操作、政治的扇動などの「ハイブリッド攻撃」も積極的に展開している。これは伝統的な戦争の枠組みにとらわれず、軍事・経済・情報・外交のあらゆる手段を組み合わせて相手国の混乱や分断を狙う戦略である。欧州各国では、政府機関や重要インフラを狙ったサイバー攻撃が増加しており、エネルギー供給網や通信システムが標的となることもある。また、ソーシャルメディアを通じて偽情報を拡散し、世論を操作する試みも確認されている。

さらに、ロシアは難民問題や移民の流入を政治的に利用し、EU内部の対立をあおる戦術も用いている。例えばベラルーシと協力し、中東やアフリカからの移民を意図的に欧州国境に送り込む「移民圧力戦術」は、ハイブリッド戦の一環とされる。

これらの動きに対して、NATOおよびEU諸国は共同で対応を進めており、情報共有やサイバー防衛体制の強化、対ドローン技術の開発などが進められている。しかし、ロシアの手法は従来の軍事戦略とは異なるため、抑止や対応が難しいのが現状である。戦争が長期化する中で、ロシアは欧州の結束を揺るがす多面的な圧力を継続しており、今後も欧州各国はハイブリッド脅威への備えを強化する必要がある。

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