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欧州中央銀行が政策金利据え置き、トランプ関税にうまく対応

トランプ政権はEUを含む主要貿易相手国に対する「相互関税」を発動した。
欧州中央銀行(ECB)のラガルド総裁(Getty Images/AFP通信)

欧州中央銀行(ECB)は11日、市場の予想通り、政策金利を据え置いた。インフレが抑制され、欧州経済がトランプ米政権の関税攻勢に予想以上に対処できたことを受けての措置だ。

ECBの金融政策決定会合はドイツ・フランクフルトの本部ビルで開催され、政策金利を2%に据え置いた。

欧州の現在の焦点はフランスの財政危機と、同国の制御不能な財政赤字と政治的膠着状態から生じうる市場の混乱に移っている。

ラガルド(Christine Lagarde)総裁は声明で、「金融政策は適切な水準にある」とし、将来の動きについては「決められた道筋はない」と述べた。

米連邦準備制度理事会(FRB)は9月17日の会合で利下げの可能性を示唆している。

ユーロを採用している20カ国の25年第2四半期(4~6月)経済成長率は前期比0.1%増。大きな成長ではないが、トランプ関税による混乱にもかかわらず、完全な景気後退に陥っているわけでもない。

経済活動の重要な指標であるS&Pグローバル購買担当者調査(S&P Global PMI)は8 月に51を記録。50を上回ると景気拡大を示す。

トランプ政権はEUを含む主要貿易相手国に対する「相互関税」を発動した。これは、欧州側が米国産品に課す関税に対抗する形で、米国も同等の関税を輸入品に課す措置であり、航空機や鉄鋼、自動車など多くの輸出品が対象となった。

この政策は米国の国内産業保護と貿易赤字削減を狙ったものであり、欧州経済に大きな影響を及ぼした。

まず、自動車や鉄鋼・アルミニウム産業を中心に、欧州の輸出企業は米国市場での競争力低下を余儀なくされた。自動車メーカーは関税負担増により価格転嫁を検討せざるを得ず、米国向け輸出量が減少した。また、航空機関連ではボーイングとエアバス間の補助金問題と絡み、関税措置が業界全体の取引コストを押し上げ、サプライチェーンの効率化にも影響を与えた。

さらに、関税発動による市場の不確実性は投資環境にも影響した。欧州企業は対米輸出戦略の見直しや生産拠点の再配置を迫られ、中期的な設備投資の抑制やコスト増加を余儀なくされた。また、消費者価格にも波及し、関税対象品の小売価格上昇がインフレ圧力を強める要因となった。特にECBが長期的な物価安定を目指す中で、米国発の保護主義的圧力は金融政策運営の難易度を高めた。

ただし、影響は一様ではなかった。ドイツやフランスなど輸出依存度の高い国々は打撃を受けた一方で、国内市場中心の中小企業や非対象産業は比較的影響が小さく、地域間・業種間での経済的差異が顕在化した。また、EUは米国との交渉を通じて、一部関税の引き下げや段階的緩和を実現することで影響を緩和しようと試みた。

相互関税は欧州経済に短期的には輸出減少やコスト増、投資抑制といった圧力をかけ、長期的には貿易戦略の見直しやサプライチェーン再編を促す契機となった。欧州諸国は、米国との交渉や多角的貿易協定を通じてリスク分散を図る必要性に直面し、保護主義的圧力への対応が経済政策上の重要課題となった。

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