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移民の強制送還増加を目指すEU、トランプ流と批判も


EUは6月12日発効予定の「移民・庇護に関する新たな枠組み(Pact on Migration and Asylum)」を通じて、移民追跡や強制退去の権限を強化することを決定した。
ドーバー海峡、イギリスを目指す移民(Getty Images/AFP通信)

欧州連合(EU)は不法移民や却下された亡命申請者の強制送還を拡大する方針を進めており、これに対して国内外の人権団体や政治家から「トランプ米政権の手法に似ている」との警告が出ている。EU当局は移民や難民の流入を抑制し、2015年のシリア難民危機の再来を防ぐためとしているが、その強硬な内容を巡って激しい論争が続いている。

EUは6月12日発効予定の「移民・庇護に関する新たな枠組み(Pact on Migration and Asylum)」を通じて、移民追跡や強制退去の権限を強化することを決定した。これにより、申請が却下された者をアフリカなどEU加盟国外の第三国に設ける「リターンハブ」へ送る仕組みも導入される。EUの執行機関であるフォンデアライエン(Ursula von der Leyen)委員長は、新たな規定により過去の流入急増を回避できると述べている。

強制送還策は人口流入を抑えたいEU加盟国内の中道から右派政党の影響力が強まっていることを反映している。2024年の選挙で右派政党が複数の国で政権を担うようになり、移民対策を強化する圧力が高まった。特にイタリアは却下された亡命申請者を収容する拠点をアルバニアに設置し、最大6カ月間国際水域で船舶を止めた上で送還を実施するといった独自の政策を展開している。

この動きはトランプ(Donald Trump)米大統領が行っている強制送還政策に似ているとの指摘もある。トランプ政権は大規模な逮捕や国外追放を進め、メキシコやエルサルバドルなどと協定を結んで強制送還を行っているが、この手法を評価する声が一部の欧州右派から上がっている。

一方で、人権団体や進歩派の政治家は、EUの強化策が基本的権利を損なう危険性を指摘する。EU域内では現在も非公式な「プッシュバック(申請手続きなしで国境を越えた人々を強制的に押し戻す行為)」が日常的に発生しており、2025年には1日平均221件、年間8万人以上の事例が報告されているとの分析もある。また、子どもを含む移民が暴力や所持品の強奪にさらされているとの人権団体の報告もある。

EUの新たな規定は強制退去に応じない者に対して最大2年間の拘留を認めるほか、警察による自宅捜索や公共空間での取り締まりを強化する内容も含まれ、批判の的となっている。これに対し、欧州議会の左派議員は、政策を「人道主義原則の裏切り」と非難し、国外での拘留センターが「人権のブラックホール」になる可能性を指摘している。

また、医療従事者など専門職からも反対の声が上がっている。欧州各国の医療専門家1100人以上が欧州議会議員に対し、病院や学校などの公共サービスを移民取り締まりの道具にするなとの書簡を送り、拘留や強制送還が精神的・身体的健康に深刻な影響を及ぼすとの懸念を表明している。

支持者は、欧州には米国よりも法的保護が強い制度が残っているとし、基本的人権や法の支配は維持されるとの見方を示す。しかし、政治的勢いが厳格な対応へ傾いていることから、将来的に人道的・法的な問題が拡大する危険性を懸念する声も根強い。特に国際法で定められた「難民の強制送還禁止(ノン・ルフールマン原則)」がどこまで保証されるかが焦点となっている。

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