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侵略的外来種と闘うキプロスの漁師、地元レストランの定番メニューに

ミノカサゴは紅海からスエズ運河を通じて侵入し、急激な個体数の増加が地元の漁業に深刻な影響を及ぼしている。
2025年12月20日/東地中海のキプロス沖、漁の準備を行う漁師(AP通信)

キプロス南部ラルナカ沖の地中海で、侵略的外来魚のミノカサゴ(ライオンフィッシュ)と戦う漁師たちが新たな取り組みを進めている。ミノカサゴは紅海からスエズ運河を通じて侵入し、急激な個体数の増加が地元の漁業に深刻な影響を及ぼしている。AP通信の取材に応じた漁師は、従来の代表的な漁獲物であったスズキやアカムツがほとんど獲れなくなったと語るほどで、その網にはミノカサゴばかりが引っかかるようになったという。

ミノカサゴは赤とオレンジの縞模様と長い毒針を持ち、天敵がほとんどいないため地中海の在来魚を圧倒し、生態系への影響が懸念されている。ラルナカの漁師約150人がこの異常繁殖に頭を悩ませており、漁獲量の激減や漁具への被害が生じている。加えて、同じく紅海由来の侵入種であるヒガンフグも増加しており、強力な顎で漁網を破壊するほか、致死性の毒を持つため食用には適さない。

これらの侵入種の拡大には、地中海の水温上昇が関与しているとみられている。欧州地中海漁業一般委員会は、地中海が世界平均より約20%速いペースで温暖化していると指摘し、温暖化によって侵入種が拡大していると分析している。また、EUも極端な気象現象の頻発化が侵入種にとって地中海をより住みやすい環境にしていると説明している。

こうした状況に対し、漁業界は多角的な対策を模索している。EU資金による補償制度では、ヒガンフグの駆除を促進するため、漁師に対して1キロ当たり約4.73ユーロの報奨金が支払われ、捕獲されたフグは焼却処分される。また、2017年から実施されている「RELIONMED」プロジェクトでは、ダイバー約100人が海底に潜ってミノカサゴの個体数を削減する取り組みも行われているという。ただし、これらの手法は一時的な効果にとどまり、根本的な解決には至っていないとされる。

一方で、侵入種を新たな資源として活用する動きも出ている。その一つがミノカサゴを食材として地元の大衆食堂やレストランのメニューに取り入れる試みである。毒針を慎重に取り除いた後に調理されたミノカサゴは柔らかく風味のある白身で、一般的な魚料理として提供されている。ラルナカ港の魚市場では、ミノカサゴの価格がスズキなどの人気魚の半額以下と競争力のある水準にあることから、飲食店側にとっても導入のメリットが大きい。

一部のシェフや食堂経営者は侵入種を食べる習慣を定着させることで、漁業と地域経済の活性化につなげたいとしている。欧州地中海漁業一般委員会は「在来種に加え侵入種を積極的に食生活に取り入れることで、漁業セクターにとっての機会に変えると同時に、生物多様性への脅威を抑制することができる」と述べている。

ラルナカのある魚料理店は、ミノカサゴを使った料理をメゼ(前菜盛り合わせ)の一品として提供している。地元客の多くはミノカサゴになじみがないものの、「一度食べてみると他の魚に劣らず美味しい」と評価する声もあるという。こうした取り組みは、侵入種対策と地域の食文化の融合という新たな挑戦として注目されている。

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