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中国、セルビアとの犯罪人引き渡し条約を批准

中国の犯罪人引き渡し条約は国家の司法協力体制を国際的に整備する試みである一方、法の支配や人権保障の観点から多くの課題を抱えている。
2024年11月3日/セルビア、首都ベオグラード、ブチッチ政権に抗議するデモ(AP通信)

中国共産党は12日、セルビアとの「犯罪人引き渡し条約」を批准した。これにより、反体制派や亡命希望者、さらには台湾人を含む中国市民の引渡しに応じる欧州諸国のネットワークが拡大した

習近平(Xi Jinping)国家主席は1年ほど前にセルビアを訪問した際、引き渡し条約を含む29の文書に署名していた。

この協定により、セルビア議会も同協定を批准した場合、両国は互いの領土内で発見された指名手配者の引き渡しを要求できるようになる。

中国は少なくとも60カ国と引き渡し条約を締結、その半数以上が正式に発効している。ただし引き渡し条約が存在しても、欧州の裁判所が中国の引き渡し請求を阻止する可能性が残されている。

中国が初めて犯罪人引き渡し条約を締結したのは1993年で、タイとの間での協定であった。それ以降、中国はロシア、フランス、スペイン、イタリア、韓国、カザフスタン、アルゼンチン、ベネズエラなど、30カ国以上と引き渡し条約を締結・発効している。ただし、米国、カナダ、イギリス、オーストラリア、日本など主要な民主主義国家とは未締結であり、その背景には司法制度の違いや人権状況への懸念がある。

中国の引き渡し条約には一般的に、以下のような条件が含まれている:

  1. 両罰性の原則:引き渡し対象となる犯罪が、双方の国で共に犯罪とされていることが必要。

  2. 政治犯罪除外:純粋な政治犯罪に関しては引き渡しを拒否できる。

  3. 死刑に関する条件:死刑制度のない国から中国への引き渡しでは、死刑が執行されないことを条件とする場合が多い。

  4. 拷問・不当処遇の懸念:引き渡された者が拷問や不公正な裁判に直面する恐れがある場合、相手国は引き渡しを拒否できる。

実際、中国の司法制度、とくに国家安全や汚職に関する案件では透明性が乏しく、任意の拘束や強制的自白、拷問の疑いも報告されている。そのため、カナダやオーストラリア、ドイツなどでは中国からの引き渡し要請に慎重な姿勢が取られている。たとえば、2018年にカナダで逮捕されたファーウェイ幹部の事件では、中国側が報復的にカナダ人を拘束したとされ、「人質外交」との批判を招いた。

また中国は「天網作戦」や「狐狩り作戦」などの名で、海外に逃亡した汚職官僚や経済犯罪者を追跡し、現地の司法制度を通さずに非公式な方法(強制帰国や家族への圧力)で本国に連れ戻すこともある。これらの行為は国際法違反や人権侵害と見なされ、国際社会の懸念を呼んでいる。

さらに、香港・マカオ・台湾との間でも引き渡し問題は敏感な政治課題となっている。とくに2019年の香港逃亡犯条例改正案は、香港市民が中国本土に引き渡される可能性を広げるものであり、大規模な抗議運動を引き起こした。この事件は、中国の司法制度への不信感と、国家安全を名目にした統制の強化に対する反発の象徴となった。

中国の犯罪人引き渡し条約は国家の司法協力体制を国際的に整備する試みである一方、法の支配や人権保障の観点から多くの課題を抱えている。中国との引き渡し条約締結や実行においては、各国が個別に慎重な判断を下す必要がある。

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