「全てを封鎖せよ」フランス全土で抗議デモ、450人逮捕
このデモが「全てを封鎖せよ」と名付けられ、複数の都市で暴動に発展。街路は煙で覆われ、バリケードが炎上し、警察は催涙ガスを乱射した。
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フランス全土で10日、政府与党の予算削減計画に抗議するデモが行われ、一部が暴徒化した。
ルタイヨー(Bruno Retailleau)内相は声明で、「約20万人が街頭に出た」と述べた。同国最大の労働組合CGTは全国で25万人余りがデモに参加したと報告している。
このデモが「全てを封鎖せよ」と名付けられ、複数の都市で暴動に発展。街路は煙で覆われ、バリケードが炎上し、警察は催涙ガスを乱射した。
ルコルニュ(Sebastien Lecornu)新首相はX(旧ツイッター)に声明を投稿。「平和的に抗議する権利を保証するが、略奪や破壊行為は容認できない」と書いた。
現地メディアによると、全国数百カ所で大小さまざまな乱闘、暴力、破壊行為、放火などが確認されたという。
8万人の警察官が動員され、バリケードを撤去し、数百人の暴徒を拘束した。
パリ市内でも催涙ガス弾が発射され、レンヌではバスが全焼。南西部では電線が切断され列車が運行を停止した。
内務省は全国で450人以上が逮捕され、少なくとも12人の警察官が負傷し、集会から街頭での放火まで、全国で800件以上の抗議行動が確認されたと報告した。
国民議会(下院、定数577)は8日、バイル(Francois Bayrou)前首相の信任決議案を反対多数で否決。これにより、9ヵ月前に発足したバイル政権は崩壊した。
野党は解散総選挙を要求しているが、マクロン(Emmanuel Macron)大統領はこれを拒否し、ルコルニュ氏を後任に指名した。
バイル氏は債務抑制のために公共支出を大幅に削減すべきだという自身の見解を野党議員も支持すると信じたが、支持を得られなかった。
フランスの財政状況は長年にわたり赤字基調が続いている。EUの安定成長協定では財政赤字をGDP比3%以内、公的債務を60%以内に抑えることが求められているが、フランスはこの基準をしばしば逸脱してきた。特に新型コロナウイルス流行以降は経済対策のため歳出が大幅に拡大し、2020年には財政赤字がGDP比9%前後に達し、債務残高もGDP比115%を超えた。
その後、景気回復とともに赤字はやや縮小したものの、エネルギー価格の高騰や社会的支出の増大により改善は限定的である。2023年時点で財政赤字はGDP比5%前後、公的債務は110%超で推移しており、依然としてEU基準を大きく上回っている。フランス政府は財政健全化を掲げているが、構造的な支出増が続くため、短期的な黒字化は難しい状況にある。
フランス財政の特徴として「社会支出の多さ」が挙げられる。医療、年金、失業保険、家族手当などの社会保障費はGDP比30%近くに達し、OECD諸国の中でも最も高い水準にある。国民からの支持は厚い一方で、歳出を膨張させる最大の要因となっている。また、エネルギー価格高騰への補助金や公共部門の人件費も財政を圧迫している。
歳入面ではフランスは高い租税負担率を維持している。消費税(付加価値税)、所得税、社会保険料などの徴収は欧州内でも重い部類に入る。しかし、既存の税収だけでは歳出を賄いきれず、国債発行に依存する体質が定着している。結果として国債残高は増加を続け、利払い負担も中期的なリスクとして意識されている。
将来的な課題としては、高齢化による年金や医療費の増大、経済成長率の低迷、エネルギー転換への投資負担がある。政府は年金制度改革や公共支出削減を進めようとしているが、強い労働組合や市民の反発に直面し、実現は容易ではない。
フランスの財政は社会支出重視のモデルを背景に慢性的赤字と高債務に陥っており、EU基準との乖離が続いている。財政再建には歳出抑制と成長促進の両立が必要だが、政治的ハードルは高く、改善の道筋は不透明である。