国連安全保障理事会での演説
ベラルーシの野党党首、 スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤ氏は、抗議者に対する当局の取り締まりの中止を支援するよう国連に要請した。
また、「ヨーロッパ最後の独裁者」アレクサンドル・ルカシェンコ大統領およびそれに近い側近への国連制裁措置も検討すべき、と主張した。
9月4日、首都ミンスクには数百人の学生、公務員、IT技術者、その他様々な人々が集結し、不正と詐欺にまみれた大統領選挙の再実施および、独裁大統領と政権の退陣を求め抗議した。
8月9日に行われた大統領選挙は、26年間の独裁体制に終止符を打つ野党リーダーおよびそれを支持する者たちの聖戦だった。が、結果は、現職のルカシェンコ大統領が「不正により圧勝」という不誠実かつ不公平な形で幕を閉じた。
怒れるベラルーシ人は、「ルカシェンコ大統領圧勝」という公式の選挙結果を却下。以降、4週間にわたって激しい抗議活動を展開している。
野党リーダーとして出馬したツィハノウスカヤ氏は、テレビ会議システムを介して国連安全保障理事会(UNSC)の会合で演説し、「露骨な人権侵害を阻止し、人間の尊厳を踏みにじるルカシェンコ大統領に立ち向かわねばならない」と語った。
同氏はルカシェンコ大統領が選挙結果を不正に操作したこと、そして抗議者に対する弾圧および拷問を厳しく非難。ベラルーシに国際選挙監視団を送り、国の現状を議論する人権理事会特別会議の開催を独裁者に命じるよう要請した。
さらに、「私は国際社会に対し、選挙違反や人道に対する罪を犯した個人への制裁などを含め、あらゆる手段を用いて暴力を阻止するよう要請する」と述べた。
選挙後に行われた最初の数日間の抗議活動で、当局は抗議者約7,000名を拘束。数百人を激しく殴打・拷問し、国際的な怒りと反政府デモを激化させた。
その後、政府は戦術を変更。脅迫、抗議者の長期拘留、活動家の訴追などで騒乱の沈静化を図っている。
当局は、ツィハノウスカヤ氏の国連演説に合わせて、首都ミンスクの州立言語大学を急襲。抗議活動で拘束された生徒との連帯を表明していたクラスメートたちの抗議活動を叩き伏せた。
しかし、その日のうちに何百人もの学生が再び大学前に集結。当局およびルカシェンコ大統領の卑劣な行為を「恥」と罵った。
当局は首都ミンスク市街でも活動を強めている。ハイテクパークの外で抗議活動を行っていたIT企業の従業員たちは、治安維持部隊の鉄鎚を浴びた。
その後、政府の金融乱用を告発したマネジャーを含む数人の労働者が逮捕され、それに抗議するIT企業の従業員たちが人間の鎖で対抗した。
IT専門家のドミトリー・ボロノフスキー氏はABCの取材に対し、「大手IT企業への捜査と逮捕は連帯の波を引き起こし、抗議者の怒りに油を注ぐだけである。ベラルーシ人は自由・公平・公正の大切さを痛感しており、独裁政権に戻るつもりはない」と述べた。
9月4日の早朝、いくつかの政府ウェブサイトがハッカーに攻撃を受けた。
ハッカーは内務省の公式サイトに侵入。そこに投稿された指名手配犯リストに、ルカシェンコ大統領と内務大臣の名前を追加した。
近年、ベラルーシ政府は老朽化した重工業に依存するソビエト式経済の多様化を目指し、IT関連分野に力を入れてきた。
結果、IT企業は税制優遇措置やその他の様々なメリットに恵まれ、過去数年間で急速に成長。政府の貴重な収入源になった。
首都ミンスクのハイテクパークでは750のIT企業(従業員数58,000人超)が活動しており、国のGDPの6%を占めるまでに成長した。
抗議活動が始まった時、IT企業の従業員たちはすぐに参加を表明。彼らはベラルーシを離れる計画について話し合い、「弾圧もしくは拷問が続く限り、私たちはこの国で仕事を行わないだろう」と主張した。
先月、何十人ものIT起業家もしくは経営者たちが公開書簡を提出、反対意見に対する抑圧は、ベラルーシで働く素晴らしいIT技術者の流出の引き金になると警告した。
多くのIT企業が法律を踏みにじることに反対し、弾圧と拷問が続くようであれば、「数カ月以内にIT技術者とその家族はベラルーシから離れる」と述べている。
大手IT企業のEPAMは、抗議活動に参加したことで職を失った人々向けの「ITキャリア提供トレーニングプログラム」を開始した。
国連安全保障理事会での演説
当局vs抗議者
ベラルーシ当局は、抗議の流れを食い止めようと、野党活動家が政権との交渉のために立ち上げた調整評議会メンバーを狙っている。
先週、メンバーの2人が無許可の抗議に参加した容疑で逮捕され、首都ミンスクの裁判所は彼らに禁固15日の有罪判決を言い渡した。
また、今週初めには6人のベラルーシ人ジャーナリストが学生の抗議活動を報道した罪で拘束、起訴された。9月4日に彼らの法廷審問が行われ、ルカシェンコ大統領専属治安部隊が当日の様子を証言し、裁判所は禁固3日の有罪判決を言い渡した。
裁判所の外では、ジャーナリストたちの同僚が怒りの声と共に、「自由」を訴えた。
当局はベラルーシ人ジャーナリストの取材認定を取り消し、モスクワに拠点を置くAPジャーナリスト2人を含む外国人メディア関係者を強制送還した。
国営テレビを退職した人気テレビ番組の司会者は、不正な集会に参加した罪で禁固10日を言い渡されている。
ベラルーシのジャーナリスト協会会長を務めるアンドレイ・バスチューテス氏はAP通信の取材に対し、「彼らはジャーナリストを殴打し、裁判にかけ、資格照明を剥奪し、国から追放した。法律は一切機能せず、独裁状態に拍車がかかっている」と語った。
アメリカとEUは8月9日に行われた大統領選挙について、「自由でも公正でもない」と非難、ベラルーシ当局に対し、野党との対話を行うよう要請した。しかし、ルカシェンコ大統領はこれを却下している。
マイク・ポンペオ国務長官は保守的なラジオ番組の取材に対し、「ベラルーシの選挙は、本来の選挙とはかけ離れたものであり、彼らの弾圧と拷問がそれを証明している。不正は正さねばならない」と語り、ベラルーシ人の基本的人権を確保するために、ヨーロッパ諸国と協力し事態の打開を図っていると付け加えた。
西側の批判に直面したルカシェンコ大統領は、ロシアのバックアップを求めた。
プーチン大統領は、抗議活動が暴力的になった場合、ルカシェンコ大統領の要請通り、治安部隊を派遣する用意ができていると警告した。
ベラルーシの国防大臣は4日にクレムリンを訪問。西側を「ベラルーシ国家とロシアに戦争を仕掛ける愚か者」と非難し、前例のない外交的・政治的・経済的圧力をかけた。
先月、EUの指導者たちは、「選挙の談合、残虐行為、抗議者などの投獄」に関与したベラルーシの高官に対し、資産凍結を含む制裁を課すと発表した。
ベラルーシの国連特別報告者を務めるアナイス・マリン氏は、ルカシェンコ大統領の26年におよぶ独裁政権は全てをコントロールし、国民の投票が不正操作されたと国連会議で語った。
またマリン氏は、「治安部隊に集団暴行された挙句、こん睡状態に陥った16歳の少年」を例に挙げ、当局の拷問を厳しく非難した。
アナイス・マリン氏:
「当局は恣意的に逮捕した者たちを、今すぐ解放しなければならない」
「ルカシェンコ大統領と政府は、狂気に満ちた戦争で自国民を破壊している」
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・ルカシェンコの専属部隊が野党指導者に襲いかかる
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・プーチン大統領がロシア軍投入の可能性を示唆
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