ロシア軍の介入
8月27日、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、今のところロシア軍をベラルーシに派遣する必要はないと考えているが、抗議者たちがアレクサンドル・ルカシェンコ大統領を排除しようとした場合、行動に出るかもしれないと警告した。
また、抗議活動に直面したルカシェンコ政権を支援するための治安部隊投入「準備」の完了を示唆したうえで、「私は今、それらを配備する必要があるとは考えておらず、望んでいない」と述べた。
プーチン大統領は、8月27日のロシア国営放送インタビューで次のように述べた。
ウラジーミル・プーチン大統領:
「ロシアはベラルーシの全ての問題が平和的な方法で解決されることを望んでいる。今のところ、ロシア軍がベラルーシで行動することはない。ルカシェンコ大統領は私が行動しないことを了承している」
3週間前、ベラルーシの大規模な抗議活動は、大統領選挙の不正および野党党首追放がトリガーとなり、幕を開けた。
その後、クレムリンが再選を果たしたルカシェンコ大統領の保護および政権崩壊防止のために動く、という情報が流れた。なお、プーチン大統領は、ルカシェンコ大統領の「要請」に一部応じ、治安部隊の準備を整えたと認めている。
プーチン大統領はロシア国営放送インタビューの中で、ルカシェンコ大統領との電話会談について述べた
ウラジーミル・プーチン大統領:
「ルカシェンコ大統領に一定の資金を確保するよう求め、実現した。しかし、内政が制御不能にならない限り、それは使用しない、と同意している。また、野党や抗議者への過激な行動は控え、境界線を越えないよう要請した。ベラルーシ国民は今すぐ、車、建物、施設への攻撃をやめてほしい。行政の建物を不当に占拠してはならない」
プーチン大統領の静かな圧力は、ベラルーシ騒乱を破局的な方向に推し進めるかもしれない。
クレムリンはルカシェンコ大統領”への”暴力と撤退を容認しない。
ルカシェンコ政権の独裁と腐敗にはロシアが深くかかわっている。が、プーチン大統領はそれを認めず、気にも留めない。
ウクライナと蜜月関係を構築したロシアは、革命を経てクリミアを併合。秘密裏にウクライナ東部へ軍を派遣し、軍事介入を引き起こした。
首都ミンスクでの抗議活動は平和的だった。しかし、大統領選挙での不正を厳しく指摘されたルカシェンコ大統領は、抗議活動が始まった最初の数日間で数千人を拘束・拷問した。
ルカシェンコ大統領に忠実な機動隊は抗議者を叩き伏せ、地面に這いつくばらせ、刑務所に連行し、老若男女を問わず組織的に痛めつけた。
先週および先々週の日曜日には、首都ミンスクでベラルーシ史上最大規模の抗議活動が開催され、10万人を越える人々が市内に殺到、ルカシェンコ大統領の辞任と再選挙を要求した。
巨大な抗議活動の波は、ルカシェンコ大統領に強烈な圧力をかけ、「ヨーロッパ最後の独裁者」の地盤を揺るがしている。
しかし、大統領は野党との交渉を拒否したうえで、「抗議活動の主導者たちはNATO軍と結託し、ベラルーシを制圧しようとしている」と非難した。
抗議活動の規模が拡大し、EUやNATOから圧力を受けたことで、ルカシェンコ大統領の専属治安部隊は、残忍な暴力を控えるようになった。が、当局は「逮捕した者に刑事罰を科す」「一部の主要指導者の拘留」など、報道されにくい戦術に方向転換し、抗議活動を弱体化させている。
結果、平日の抗議活動の規模は縮小した。さらに、最近では扮装した専属治安部隊が抗議活動に参加し、群衆が少なくなったタイミングを見計らって逮捕、拘留する戦術も導入されている。
ロシア国営放送インタビュー
ロシアの圧力
プーチン大統領は国営放送インタビューの中で、ベラルーシの情勢は「横ばい状態」にあると信じており、状況を解決するための武力介入は「現時点では」必要ない、と繰り返し述べた。
ロシアのルカシェンコ大統領保護プランについて、アナリストたちの意見は分かれている。
一部の政権幹部は、「ベラルーシがヨーロッパにすり寄らない限り、クレムリンはルカシェンコ大統領の後任を受け入れる準備ができている可能性がある」と示唆した。
しかし、少なくとも現時点では、クレムリンは弱体化したルカシェンコ政権の存続を望んでいる。さらに、今回の「救援要請」を引き合いに出し、ロシアとの統合を受け入れるよう圧力をかけることもできるだろう。
クレムリンによるルカシェンコ大統領保護プランを裏付ける兆候も確認されている。
8月25日、ルカシェンコ大統領は、ロシアから750億ルーブル(約1,070億円)を借り入れることで合意したと発表した。
ロシアからの援助の兆候は他にもある。
ルカシェンコ大統領は、ゼネラル・ストライキ中のベラルーシテレビ局スタッフに代わり、ロシアの州テレビ局スタッフおよび制作担当者が派遣されたと語っている。
なお、抗議者たちはロシア軍の介入を恐れており、「抗議開始直後に出動した機動隊はベラルーシ人ではなくロシア人だった」と主張する者もいる。ただし、これを証明する証拠は出ていない。
オンラインフライトトラッカーの情報によると、ロシア連邦保安庁の責任者を移送する政府専用機が、8月26日夜、ミンスクからクレムリンに戻ったという。
EUはルカシェンコ大統領の弾圧に厳しく対処するとコメントし、大統領選挙の再実施を求めた。
対立候補の野党リーダー、スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤ氏は、専属治安部隊から拘束・拷問を受ける恐れがあったため、リトアニアへの逃亡を余儀なくされている。
プーチン大統領は、「ロシアよりベラルーシに近い国はない」と述べ、アメリカとヨーロッパよりも「中立・公平」に今回の騒乱を抑えることができると語った。また、抗議者に対する暴力を否定し、「好き勝手に行動することは許さない」と警告した。
【関連トピック】
・NATOがルカシェンコ大統領の主張を却下
・ルカシェンコ、デモとゼネストへの取り締まりを強化
ロシアはどう動く?
シリア
8月26日、シリア東北部でロシア軍とアメリカ軍の装甲車両が激突。米兵数名が負傷し、両国は互いに非難声明を発表した。
衝突の様子はロシアのナショナリストが管理するウェブサイト「Rusvesna.su」で公開、拡散された。
クレムリンは米軍がパトロールを妨害したと主張した。
一方、アメリカの国防当局者はCBSニュースの取材に対し、「ロシア軍は立ち入り禁止区域内、安全地帯に侵入した」と語った。
ホワイトハウスのスポークスマンは記者団に対し、「衝突で乗務員数名が軽傷(4名:軽度の脳震盪)を負った」と述べた。
2011年以降、クレムリンはシリア政府軍を支援。これに対しアメリカは地元のクルド人戦闘員に武器を提供している。
ロシア国防省:
「我々は当該地域をパトロールするであろうと米軍に伝えていた。それにも関わらず、彼らは既存の協定に違反し、装甲車両で攻撃を仕掛けてきた」
「ロシア軍は攻撃に応じ、彼らに与えられた使命を果たすべく、必要な措置をとった」
ホワイトハウス国家安全保障会議(NSC):
「ロシア軍は我々の地雷耐性全地形対応車両を攻撃し、乗務員にケガを負わせた。安全配慮とプロ意識に欠けた行動は、2019年12月に約束した”第二のサイクス・ピコ協定”に違反する」
米軍とロシア軍の衝突