9月23日 AP通信/ベラルーシ、首都ミンスクで行われた大統領就任式の様子。就任宣誓を行うルカシェンコ大統領

キプロスは拒否権を行使せず

10月1日、ブリュッセルの欧州理事会ビルに集まったEU指導者たちは、大統領選挙の結果を改ざんし、平和的な抗議者を拷問するベラルーシ高官への制裁に合意した。

前回のサミットで拒否権を行使したキプロスは、ベラルーシへの制裁に合意する条件として、「EU各国は地中海の紛争海域でエネルギー探査作業を行うトルコへの行動を起こすべき」と強く主張していた。

今回、夜遅くまで続いた首脳陣による話し合いの結果、EUは「キプロスとギリシャへの支持声明を発表」し、海底探査・掘削を続けるトルコに対しては、「作業を継続すれば懲罰的措置に直面するという警告を出す」ことに合意。

結果、ベラルーシへの制裁は全会一致で可決された。

欧州理事会のシャルル・ミシェル議長はサミット終了後、記者団に対し以下のように述べた。

シャルル・ミシェル議長:
「ベラルーシ高官への制裁が決まった。必要な手続きを行い、速やかに実施することが重要である」

10月2日から約40人のベラルーシ高官および当局関係者への制裁手続きを開始する

2020年10月1日 AP通信/ブリュッセルの欧州理事会ビルでのEUサミット、クロアチアのアンドレイ・プレンコビッチ首相に挨拶する欧州理事会のシャルル・ミシェル議長

首脳陣の様々な思惑により、EUのイメージは傷ついた。

キプロスを含む27のEU加盟国は、ベラルーシのアレクサンドル・ルカシェンコ大統領が6期目かけて挑んだ8月9日の選挙結果を拒否、国家ぐるみの恥ずべき不正と改ざんを糾弾した

EUは再選挙を求め制裁に動き出した。しかし、地中海をめぐるエネルギー問題で足並みは揃わず、早期の制裁合意に失敗。今回ようやく、ヨーロッパ最後の独裁者を含むベラルーシ政府高官への措置が決まったのである。

サミット前、EUの首脳陣たちは、「恥ずべきベラルーシ政府とルカシェンコ大統領への制裁に反対するスタンドオフは今すぐ終わらせるべき」と求めていた。

これに対し最小加盟国のひとつ、キプロスはベラルーシの政策を否定しつつも、制裁には反対の立場を示していた。

キプロスは「紛争海域でのエネルギー探査を強行するトルコに断固たる措置を取るべき」と主張。”交換条件”が認められなければベラルーシへの制裁には同意できず、拒否権を行使すると述べていた。

首脳陣たちはこの行き詰まりを先月のサミットでは打開できず、EUの外交政策責任者を務めるジョセップ・ボレル氏は、「27ヵ国が共通の外交政策を構築することが重要である。我々の信頼は危機に瀕している」と警告した。

オランダのマルク・ルッテ首相は1日の首脳会談前に、「制裁を機能させることができなければ、EUの信頼は失墜する」と語った。

マルク・ルッテ首相:
「ベラルーシへの制裁に合意することが何より重要である」

「ベラルーシとトルコのつながりは政治的なものに過ぎず、今回発生した不正と関連付けること自体間違っている」

トルコが強行している海洋探査についても、EUはそれ相応の態度で臨むべき。そして、ベラルーシへの制裁を可決し、一刻も早く措置に踏み切らなければならない」

2020年8月23日 Getty Imagesベラルーシ、首都ミンスクで開催された集会、野党党首のマリア・コレスニコワ氏
2020年8月30日 AP通信ベラルーシ、首都ミンスクで開催された集会、野党党首のマリア・コレスニコワ氏が治安維持部隊に抗議する

今回のサミットに先立ち、ある外交官は会議が長引くと予想し、宿泊施設を確保したという。

首脳陣は「トルコによる地中海での掘削」「リビアとシリアでの紛争におけるEUの役割」「欧州諸国に救援を求める避難民や移民問題とその源にあるトルコとの関係」などについて、幅広い話し合いを行った。

そして懸案事項のひとつだったベラルーシへの制裁について、ミシェル議長は特別声明を発表。加盟国への協調を呼びかけ、EUとして取るべき措置の重要性を訴えた。

サミット終了後、EUの外交官は、数日中にベラルーシへの制裁を発動させると述べた。

フランスのエマニュエル・マクロン大統領はキプロスに関して、「EUの連帯に交渉を持ち出すべきではない。我々は協調してトルコとの長期に渡る紛争に対処すべきだ」と主張しており、その考えは1日も変わらなかった。

エマニュエル・マクロン大統領:
「EU加盟国が攻撃され、脅かされ、領海を尊重されない事態に陥っている。キプロスに対し連帯を示すことは、欧州人の義務だ」

サミット終了後、キプロスのニコス・アナスタシアディス大統領は、独立60周年を記念するテレビ演説の中で、以下の声明を発表した。

ニコス・アナスタシアディス大統領:
「トルコの挑発に対するEU全加盟国の強力な支援と連帯に心から感謝する」

「トルコのような砲艦外交ではなく、国際法とそれに基づいた国際法廷での対話によって危機を乗り切ることが重要である。EUは、具体的かつ効果的な姿勢を示してほしい」

ギリシャのキリアコス・ミツォタキス首相も声明を発表、同様の指摘を行った。

キリアコス・ミツォタキス首相:
「ヨーロッパとトルコとの関係を真剣に話し合う時が来た。我々はトルコの強硬姿勢を改善させなければならない」

「ひとつハッキリしている点は、トルコの一方的な挑発行動および地中海での独善的な海洋探査は到底容認できない、ということだ」

一方、トルコの首都アンカラで演台に立ったレジェップ・タイイップ・エルドアン大統領は、地中海東部での活動を「過去数世紀の間で最も重要な海軍闘争」と表現した。

2020年10月1日 AP通信/ブリュッセルの欧州理事会ビルでのEUサミット、欧州理事会のシャルル・ミシェル議長

議会での演説の中でエルドアン大統領は、「EUは烏合の衆であり、大した成果を上げることもできず、ギリシャとキプロスの奴隷になり果てた」とけん制した。

欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は以下のように述べている。

ウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長
「トルコは私たちと一緒に建設的な道を進みたい、と証明しなければならない。私たちの意見に反対する場合、必要な全ての措置を行う準備はできている」

サミットの共同宣言には、「EUは外部の干渉を一切受けることのない新しく公正な大統領選挙によってベラルーシの代表者が選出されること。そして、国民の民主的権利が保障されることを完全に支持する」「ベラルーシ当局者に対する制裁措置を課す」と記される予定であり、数日中にルカシェンコ政権への措置が発動するものと思われる。

EU首脳陣はベラルーシ当局に対し、「暴力と抑圧を終わらせ、不当に拘束した抗議者、野党関係者などを釈放し、報道の自由と市民社会を尊重したうえで、包括的な国内対話を速やかに開始するよう求める」と呼びかけた。

ベラルーシへの制裁が迅速かつ全加盟国の全会一致で早急に決まらなかったことは、対処しなければならない他の問題にスポットライトを当てている。

首脳陣は今後、中国との関係についても話し合う予定である。ただし、中国は経済的、政治的な問題を抱えると同時に主要な貿易国であり、各国の足並みは揃っていない。

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