大統領選挙での不正
ベラルーシでは、長い間政権を保持し続けてきたアレクサンドル・ルカシェンコ大統領による不正選挙疑惑がきっかけとなり、大規模な抗議活動が発生した。
大統領選挙から1週間後、野党を支持するデモ参加者の猛抗議、警察当局による残虐行為、警察に抗議する人々の行進、および主要国営企業でのストライキなどが発生した。
ルカシェンコ大統領の政権保持期間は26年。これはソビエト連邦の崩壊によって引き起こされた混乱の中で誕生し、現在のヨーロッパの中で最も長く国を支配している。
ルカシェンコ大統領は、ベラルーシにソビエト共産主義の要素を取り入れ、長年独裁者と見なされてきた。
製造業の大半は国の管理下に置かれ、主要メディアも政府の忠実なる下僕である。そして、圧倒的な権力と力を持つ警察機構はKGBと呼ばれてきた。
ルカシェンコ大統領は、自国を悪質な外国勢力から守り、安定を保証すると国民に約束し、タフなナショナリストとしての地位を確立すべく行動してきた。
ルカシェンコ政権下のもとで行われた選挙に自由と公正はない。独裁者としてベラルーシを長年支配した結果、不正は現在の統治システムを維持するうえで欠かすことのできないものになり、有権者も慣習なので仕方がないと考えていた。
しかし、ルカシェンコ大統領に向けられる視線はここ数カ月で変わった。野党の政治家たちは、国中に蔓延している腐敗と貧困、機会の欠如と低賃金などの問題を訴え、国民の考えに変化をもたらした。
ベラルーシが抱える問題は、コロナショックによって悪化した。
ルカシェンコ大統領はコロナウイルスに打ち勝つ方法として、「ウォッカを飲み、サウナに入って汗をかくとよい。さらに、バリバリ仕事をこなせばウイルスは消え去るだろう」などと提案した。
これに対し反対派は、大統領の意味不明な発言を真っ向から否定。「政権はまともに機能していない」「今こそ改革が必要」と訴え続けた。
その後、大統領選挙前に反対派への弾圧が実行され、二人の野党候補が投獄。もう一人は国外に逃亡し、結果、これらの暴挙に強く抗議する野党連合が結成された。
野党連合をまとめる代表のひとり、スヴャトラーナ・ツィハノウスカヤ氏は、警察当局に拉致された夫、シャルヘイ・ツィハノウスキー氏に代わり、大統領候補に立候補した。
スヴャトラーナ氏は、野党連合を一緒にまとめる同盟者たちと選挙運動を行い、政治的変化の欠如に不満を抱いていた国民の支持を集めた。
ベラルーシの大統領選挙に自由と公正はない。投票結果は、現政権の都合に合わせて書き換えられる。
野党連合は独立した選挙管理タスクフォースの結成を要求したが、ルカシェンコ大統領はこの提案を拒否。投票はこれまでと全く同じ体制下で実施され、多数の不正行為が報告(文書化)された。
投票終了後、出口調査が発表された。国営メディアは現職のルカシェンコ大統領が有効票の80%を獲得、圧倒的勝利を収めたと報道した。
「対立候補のツィハノウスカヤ氏はわずか10%に終わり、惨敗した」とメディアは伝えた。
当局による票のチェックは終了した。
しかし、全国で実施された出口調査の結果を野党候補者が全てチェックしたところ、「ツィハノウスカヤ氏に投票した」と答えた人は全体の70%に達したのである。
国営メディアは現政権の指示に従い、ルカシェンコ大統領が圧勝したと報道した。しかし、情報は不正確かつ不誠実なものであり、国民の怒りを買った。
ロシアの介入
大統領選挙当日の夜。開票結果に納得できない人々がミンスクなどの都市に集結し、抗議活動を行った。
これに対し警察当局は、群衆を破壊すべく、催涙ガス弾、ゴム弾、スタングレネードを撃ち込み、約3,000人を逮捕した。
抗議活動は全国に波及し、さらに3,700人が逮捕。1日で約6,700人が牢獄に叩き込まれた。
大統領選挙の翌日。ツィハノウスカヤ氏は選挙結果に不正があったと訴えた。結果、彼女は7時間拘留されたのち、リトアニアへの流罪を言い渡された。
その後、ツィハノウスカヤ氏はSNSに動画メッセージを投稿。「自分は強い人間だと思っていたが、子供たちの安全を考え、流罪を受け入れるしかなかった」と述べた。
ルカシェンコ大統領は強権を発動し、各所に圧力をかけた。
しかし、選挙日の夜に発生した抗議活動を取り締まった警察の残虐行為が明らかになり、事態は悪化した。
警察はKGB顔負けの暴挙に出た。抗議者たちを骨が折れるまで叩きのめし、投獄された者たちは激しく殴打された。
その後、大半の抗議者たちは解放された。
人々は警察の残虐行為を証明すべく、怪我の写真や動画をSNSに発信し、世界の注目を集めた。
このデモ活動が新しい抗議スタイルを生み出した。残虐行為の犠牲になった者の友人や家族が拘留所付近集まり、人々の解放を求めた。
女性たちは抗議活動にそぐわない白い服を着用し、バラの花を持っていた。これは、「私たちは暴力に反対する」という意思表示である。
さらに、全国の主要国営企業の労働者たちが、大統領選挙の不正行為と抗議者への残虐行為について、管理職と地方当局に回答を求めた。
国営メディアのスタッフたちは、「真実」のみの報道を開始すると誓い、国営企業でストライキが始まっていると発表した。
大統領選挙後、多くの当局関係者や現職警察官が辞任。ベラルーシのスロバキア大使、イゴール・レジェニヤ氏は、抗議者たちとの連帯を宣言した。
騒乱が続く中、ルカシェンコ大統領はロシアのプーチン大統領にヘルプコールを出した。
ルカシェンコ大統領は記者団に対し、「国内で軍事的脅威が発生した場合、ロシアによる包括的な支援が提供される」と語った。
クレムリンは、二人の指導者が8月16日に電話会談したと発表。ベラルーシにかかる不当な圧力への対処方法を話し合った。
プーチン大統領は、「ベラルーシとの軍事協定に従い、いつでも支援する準備ができている」と述べた。
ロシアの介入はEUとアメリカへの対抗措置である。
8月14日、EUは「暴力、抑圧、選挙結果の改ざん」への措置として、ベラルーシに対する新たな制裁を準備すると発表した。
アメリカは大統領選挙の開票について、「自由と公正さに欠ける」と非難した。
バルト三国(ラトビア、リトアニア、エストニア)の首相は共同声明を発表。「暴力的な弾圧と当局による野党への政治的弾圧は到底容認できない」と懸念を表明した。
リトアニアとラトビア当局は、抗議者への暴力を停止し、市民社会のメンバーで構成された全国評議会を結成すれば、調停に応じると述べた。なお、要求に応じなかった場合は制裁が課される。
リトアニアのサウリュス・スクヴェルネリス首相とラトビアのクリシュヤーニス・カリンシュ首相は、大統領選挙の不正を非難し、国際監視団による管理下化の元でクリーンな投票を行うよう呼び掛けた。
ベラルーシでの大規模な抗議