◎昨夏に神経ガス「ノヴィチョク」で暗殺されかけたロシアの野党指導者のアレクセイ・ナワルニー氏は、首都モスクワのシェレメーチエヴォ国際空港に到着後、当局に拘束された。
◎ナワルニー氏のスポークスマンによると、警察はナワルニー氏の連行先を告げず、弁護士の同行も拒否したという。
1月17日、昨夏に神経ガス「ノヴィチョク」で暗殺されかけたロシアの野党指導者のアレクセイ・ナワルニー氏は、首都モスクワのシェレメーチエヴォ国際空港に到着後、当局に拘束された。
ナワルニー氏は先週、ロシア当局の脅迫には屈しないと宣言したうえで、自国に戻ると約束していた。
当局はナワルニー氏が搭乗した飛行機の目的地を変更し、待ち構えていた数百人の支持者とメディア関係者は別の空港に足止めされた。
報道によると、ナワルニー氏は入国手続きを終えた直後に拘束、連行されたという。なお、妻のマリア氏は無事だった。
ナワルニー氏のスポークスマンを務めるキラ・ヤーミッシュ氏は記者団に対し、「警察はナワルニー氏の連行先を告げず、弁護士の同行も拒否した」と述べた。
西側の指導者はナワルニー氏の逮捕に即反発した。
バルト三国(エストニア、リトアニア、ラトビア)はナワルニー氏の即時の釈放を共同声明で要求し、拒否すれば、EUは新たな制裁を検討しなければならないと述べた。
アメリカのジョー・バイデン次期大統領もロシア当局の対応を非難した。
バイデン氏の国家安全保障顧問に就任する予定のジェイク・サリバン氏は、「ロシア当局はナワルニー氏を直ちに釈放し、攻撃の責任を負うべきである。ナワルニー氏に対するクレムリンの攻撃は単なる人権侵害であり、野党指導者の声を聞きたいロシア市民を侮辱している」と語った。
人権団体、アムネスティ・インターナショナルは声明で、「ロシアはナワルニー氏を攻撃し、汚名を着せ、不当に逮捕した」と述べた。
ナワルニー氏が帰国する数日前、ロシア当局は、「ナワルニーは2014年の詐欺事件による執行猶予判決に違反して国外逃亡したため、指名手配リストに追加した」と発表した。
なお、ナワルニー氏側および被害にあったとされる企業は詐欺の事実を完全否定したうえで「当局の罠」と主張したが、弁護士の主張は一切認められず、裁判は異例のスピードで結審した。
ナワルニー氏はロシアで最も有名な野党指導者であり、ウラジーミル・プーチン大統領および政府の腐敗を調査し、地道に活動を続けることで多くの支持を得た。
昨年8月、ナワルニー氏は当局者に猛毒の神経ガス「ノヴィチョク」を投与され半死半生の状態に陥ったが、ドイツの病院で一命をとりとめた。
シェレメーチエヴォ国際空港に到着したナワルニー氏は同乗した記者団に対し、「帰国できて幸せだ。私は戻るしかなかった」と述べた。
アレクセイ・ナワルニー氏:
「彼らは私に尋ねるだろう。しかし、私は恐れていない。私は、自分が正しいことを知っている。入国手続きを行い、自宅に戻る。私に対するすべての刑事事件は当局の捏造であり、私は戦い続ける」
記者団の取材に応じてから数分後、ナワルニーは連行された。
ナワルニー氏が当初到着を予定していたヴヌーコボ国際空港では支持者と警察が衝突し、少なくとも37人が逮捕された。
報告によると、ナワルニー氏の到着を待ち構えていた数百人の支持者に警察が襲いかかり、警棒などで叩き伏せたという。
ロシア当局はナワルニー氏への神経ガス攻撃を否定している。しかし、独立した諜報集団のベリングキャット、インサイダー、CNNニュース、デア・シュピーゲルのチームは攻撃に関連する証拠を発見し、音声データなどを世界に発信した。
先月、プーチン大統領はナワルニー氏への神経ガス攻撃について、「もしそれが事実なら、もし私が彼を毒殺したいと本気で思ったら、必ず成功させるだろう」と述べ、関与を否定した。
ロシア産の猛毒、ノヴィチョクについて
・ソビエト連邦秘密プログラムで開発された神経ガス兵器。
・2018年、イギリス、ソールズベリーで元ロシアの二重エージェント、セルゲイ・シュクリバル氏を毒殺(未遂)する際に使用された。
・ノヴィチョクはロシア語で「新しい男の子」を意味する。
・バイナリー兵器(二種混合型化学兵器)の一種。
・パイナリー兵器は「VXガス」や「サリン」などの一般的な神経ガスとは異なり、アクティブ化するために2つの物質を組み合わせる。
・ロシアの科学者、ヴィル・ミルザヤノフ氏によると、ノヴィチョクは「フォリアント」と呼ばれるプログラムで開発されたという。
・威力はVXガスの5倍~8倍。(米スティムソン・センター)