トルコ大統領、イスラエル軍のカタール空爆を糾弾「テロリズム」
イスラエル軍は9日、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスの幹部を標的にドーハに攻撃を行ったと発表。ハマスのメンバー5人が死亡したと明らかにした。
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トルコのエルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領は9日、イスラエル軍によるカタール・ドーハへの攻撃を非難し、ネタニヤフ政権が中東地域の緊張を劇的に高め、不安定にしていると糾弾した。
エルドアン氏は声明で「この攻撃は国際法とカタールの主権に対する明らかな侵害であり、兄弟国カタールの安全と平和をも標的としたものだ」と断じた。
またエルドアン氏は「トルコはあらゆる能力をもって、パレスチナの兄弟たち、そして同盟国であり戦略的パートナーであり友人カタールと共に立つ」と述べた。
これに先立ち、トルコ外務省は今回の攻撃について、イスラエルが地域における拡張主義的政策と「テロリズム」を国家政策として採用したことを示していると表明した。
同省は声明の中で「停戦協議が続く中でのハマス交渉団への標的攻撃はイスラエルが平和達成を目指すのではなく、戦争継続を意図していることを示している」と非難した。
イスラエル軍は9日、パレスチナ・ガザ地区のイスラム組織ハマスの幹部を標的にドーハに攻撃を行ったと発表。ハマスのメンバー5人が死亡したと明らかにした。
カタール内務省は治安当局者1人が死亡し、数人がケガをしたと報告している。
23年10月にガザ紛争が勃発して以降、イスラエルとカタールの関係は複雑な緊張と限定的協力が交錯する状態となっている。
カタールは長年にわたりハマスの政治指導部を受け入れ、ガザへの資金援助を行ってきたため、イスラエルからは「ハマスの後ろ盾」として見られている。
一方で、紛争が激化するとカタールは人道的支援や停戦交渉の仲介役を担う重要な存在となり、西側諸国や国連もその調整力に依存している。
実際、イスラエルとハマスの間で捕虜交換や一時停戦が成立した際には、カタールがエジプトや米国とともに主要な仲介国として動いた。
しかしイスラエル国内では、カタールに対する評価は分かれている。政府や軍は交渉ルートを維持するために必要不可欠とみなす一方、右派を中心に「テロ支援国家」として強く非難する声が根強い。
またイスラエル政府内でも、カタール資金の流入がガザの人道状況を改善する効果を持ちながら同時にハマスの支配を間接的に支えてきたとの認識が広がっている。
カタール側も自国の立場を「人道支援と調停」と位置づけるが、イスラエルとの関係は常に不信感を伴っている。
結果として、イスラエルとカタールは公式な外交関係を持たないまま、ガザをめぐる危機管理において実利的な接触を続けている。
トルコとイスラエルの関係も急速に悪化している。もともと両国関係は2000年代以降、断続的に緊張と改善を繰り返してきたが、今回のガザ紛争をめぐってはトルコが強硬にパレスチナ側を支持し、イスラエルを厳しく非難したことで、両国関係は再び深刻な対立局面に突入した。
23年10月7日にハマスがイスラエル南部を奇襲攻撃し、多数の死傷者と人質を出したことを契機に、イスラエルは大規模な軍事作戦をガザ地区で開始した。
これに対し、エルドアン氏は当初からイスラエルの行為を「ジェノサイド」と断じ、パレスチナ人民への全面的な支持を表明した。
トルコ政府はガザでの空爆や地上侵攻による市民の犠牲を強調し、国際社会に対してイスラエルへの圧力を求めた。これにより、トルコは欧米諸国の大半と異なる立場を鮮明にし、外交的な対立の構図が深まった。
経緯を振り返ると、トルコとイスラエルの関係は冷戦期から比較的安定していた。両国は軍事協力や経済交流を拡大し、特に1990年代には中東地域で数少ない親密な関係を築いていた。
しかし、2008年から2009年にかけてのイスラエルによる「キャスト・レッド作戦」や、2010年のガザ支援船団襲撃事件(マヴィ・マルマラ号事件)を契機に、トルコはイスラエルに対して強硬姿勢を強め、関係は急激に冷却化した。
その後、両国は2020年代初頭にかけて段階的に関係改善を模索し、2022年には大使を相互に派遣するまでに至った。しかし、この「雪解け」はガザ紛争で完全に崩れ去った。
ガザ戦争以降、エルドアン氏はイスラエルのネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相を「戦争犯罪人」と呼び、イスラエルの行動を国際司法裁判所(ICJ)に付託すべきだと訴えた。また、トルコ国内では反イスラエル感情が高まり、イスタンブールなどでは大規模な抗議デモが頻発した。
トルコ政府は外交関係を段階的に縮小し、2023年末にはイスラエル大使を国外に退去させる措置をとった。一方、イスラエル側もトルコの発言を「挑発的かつ敵対的」と受け止め、関係改善の余地はほとんど残されなかった。
さらに、エネルギーや経済協力といった実利的な分野でも影響が広がっている。両国はかつて地中海ガス開発や観光交流で利益を共有していたが、ガザ紛争後は協力の可能性が閉ざされつつある。特に欧州向け天然ガス供給ルートをめぐっては、トルコを経由する案が議論されていたが、政治的対立の激化により実現性は遠のいた。
中東地域における地政学的な均衡にも影響が及び、イスラエルはギリシャやキプロスなどトルコと対立関係にある国々との協力を一層強めている。
国際的な文脈で見ると、トルコはNATO加盟国でありながら、西側諸国と一線を画す外交姿勢を取ることで存在感を示そうとしている。
エルドアン政権は国内のイスラム保守層や民族主義層に向け、パレスチナ支持を強調することによって支持基盤を固める狙いもある。このため、ガザ紛争をめぐる対イスラエル強硬姿勢は単なる外交政策ではなく、国内政治とも深く結びついている。
一方で、経済的な側面から見れば、トルコとイスラエルの対立は双方に損失をもたらす可能性が高い。トルコは深刻な経済危機に直面しており、インフレや通貨安に悩まされている。観光や貿易の分野でイスラエルとの交流を断つことは短期的には政治的効果を持つかもしれないが、長期的には経済的コストが重くのしかかる。また、イスラエル側にとっても中東で数少ない外交ルートを失うことになり、孤立化を助長する可能性がある。
ガザ紛争はトルコとイスラエルの関係を再び断絶寸前に追い込んだ。歴史的に改善と悪化を繰り返してきた両国関係は、今回は特に国内政治や宗教的要素、国際秩序の変動が重なったことで修復が難しい状況にある。
トルコがパレスチナ支持を強調する限り、イスラエルとの和解は容易ではなく、今後も中東情勢における大きな火種となり続けるだろう。