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アフガニスタンの一部地域にWi-Fi禁止令、タリバンが発表

21年8月の政変以来、この種の禁止措置が取られたのは初めて。
2021年10月20日/ロシア、首都モスクワの会議場、タリバンの外交当局者(Alexander Zemlianichenko/Pool/AP通信)

アフガニスタンのタリバン暫定政権が一部地域のWi-Fi(スマートフォンやパソコンなどの機器を無線でインターネットに接続するための国際標準規格)を「不道徳防止」のため禁止した。政府報道官が16日、明らかにした。

21年8月の政変以来、この種の禁止措置が取られたのは初めて。北部バルフ州の政府機関、民間企業、公共機関、家庭でWi-Fiの利用が禁じられた。モバイルインターネットは引き続き利用可能だ。

バルフ州政府の報道官はAP通信の取材に対し、最高指導者アクンザダ(Hibatullah Akhundzada)師による「完全禁止令」により、バルフ州ではWi-Fiが利用できなくなったと述べた。

また報道官は「この措置は不道徳を防ぐためであり、必要に応じて国内で代替手段を構築する」と説明した。

バルフ州だけが対象となった理由など、詳細は明らかになっていない。

アフガンの人権状況は21年8月の政変以降、急速に悪化した。タリバンは当初、過去の統治時代(1996〜2001年)よりも「寛容で包括的な政権」を目指すと表明していたが、現実には強権的で排他的な統治を進め、人権に対する弾圧が深刻化している。特に女性や少数民族、反対派、ジャーナリスト、市民活動家に対する制約は顕著であり、国際社会からも強い批判を浴びている。

第一に、最も深刻な問題は女性の権利の抑圧である。タリバンは政権奪取直後こそ「イスラムの枠内で女性の権利を保障する」と発言したが、その約束は反故にされた。女性は中等教育以上の就学を禁止され、大学への進学の道も閉ざされた。さらに、2023年には女性がNGOや国連関連機関で働くことも禁じられ、就労の機会はほぼ完全に奪われた。公共の場では男性の同伴が求められ、外出の自由も大きく制限されている。服装についても厳格なヒジャブやブルカの着用が義務づけられ、違反した場合は家族ごと処罰される事例も報告されている。教育・労働・移動・表現といった基本的権利のほとんどが剥奪され、国連は「世界で最も女性にとって抑圧的な国」と評している。

第二に、言論・報道の自由も大幅に制限されている。タリバン政権下で多くの独立メディアは閉鎖に追い込まれ、ジャーナリストは逮捕、暴行、脅迫にさらされている。特に女性ジャーナリストは活動停止を余儀なくされ、男性記者に対しても「イスラムに反する報道」や「国家への反逆」と見なされれば即座に拘束される危険がある。SNS上で政権を批判した市民が失踪する事例もあり、恐怖による自己検閲が広がっている。

第三に、政治的反対派や市民社会活動家への弾圧が続いている。旧政権関係者や治安部隊に属していた人々は、タリバンが「恩赦」を宣言したにもかかわらず、報復的な逮捕や処刑に遭っている。国際人権団体の報告によると、秘密裏に行われる超法規的殺害や拷問も多数確認されている。また、抗議デモを行った市民は即座に鎮圧され、女性による平和的デモでさえも暴力的に解散させられている。こうした状況は、自由な結社や政治活動の余地をほぼ消滅させている。

第四に、少数民族や宗教的マイノリティに対する差別と暴力も顕著である。特にシーア派のハザラ人は歴史的に迫害を受けてきたが、タリバン政権下で再び標的となっている。ハザラ人居住地域での爆破テロや襲撃が繰り返され、学校やモスクに対する攻撃も後を絶たない。タリバン当局はこれらの事件に十分な保護を行わず、むしろ黙認していると指摘されている。また、スーフィー教徒やシク教徒、ヒンズー教徒といった少数宗教の信徒も圧力に晒され、国外への亡命を余儀なくされる例が増えている。

第五に、司法制度や治安のあり方も人権侵害の温床となっている。タリバンは独自のイスラム法解釈に基づく裁判を行い、石打ち刑や鞭打ちといった身体刑を公開で執行している。こうした刑罰は国際人権規範に反するとされるが、地方では恐怖と抑圧の象徴として機能している。また、法的手続きを欠いた即決裁判や恣意的拘禁が横行し、司法の独立性は完全に失われている。

さらに、経済的・社会的権利の侵害も深刻である。タリバン政権成立後、国際社会は資金凍結や制裁を行い、アフガン経済は急速に悪化した。貧困層や子どもたちは食料不足や医療崩壊に直面しており、特に女性や少女は支援から排除されやすい立場にある。教育や医療の機会が制限されることで、次世代の人権状況にも暗い影を落としている。

国際社会は人権侵害に強い懸念を表明しているが、タリバン政権は「内政干渉」として批判を退けている。国連や人権団体は人道支援を続けているものの、女性職員の活動禁止や現場での制約により十分な支援が行き届かない状況にある。西側諸国は外交的承認を与えず、資金援助も限定的であるため、タリバンはパキスタンや中国、ロシア、イランなどの近隣諸国との関係強化を模索している。しかし、こうした外交戦略は人権状況の改善には直結していない。

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