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VISA、シリア国内での事業開始目指す、中央銀行と合意

今回の取り組みは、シリアが過去十数年にわたる内戦や制裁で国際金融ネットワークから事実上孤立していた状況から脱却し、グローバル経済圏への再統合を目指す流れの一部だ。
VISAカード(Getty Images)

VISAは4日、シリア中央銀行および同国の金融当局との間で、デジタル決済エコシステム構築に向けたロードマップで合意したと明らかにした。これに伴い、近くシリア国内での事業開始を目指す。

この合意のもと、VISAはまず許認可を受けた金融機関と協力し、国際標準に基づく決済基盤を整備する。具体的には、EMVチップ搭載の決済カードの発行や、トークン化技術を用いたデジタルウォレットの導入を進める。これにより、シリア国内で安全かつ国際的に通用する電子支払いが可能となる。

商店や中小企業向けにも、低コストで導入可能な決済受け入れ手段の整備が進む予定だ。例えば、スマートフォンを対応端末とする「Tap to Phone」や QRコード決済といった方式により、カード決済のハードルが高かった地域でもキャッシュレス化の恩恵が広がる可能性がある。

今回の取り組みは、シリアが過去十数年にわたる内戦や制裁で国際金融ネットワークから事実上孤立していた状況から脱却し、グローバル経済圏への再統合を目指す流れの一部だ。11月に国際通貨基金(IMF)が首都ダマスカスを訪問し、銀行制度や決済インフラ整備への技術支援を表明したことも、その構えを示す。

シリア中銀の総裁は声明で、VISAやMastercardをはじめとする国際決済事業者との協力を歓迎。「我々の近代化構想を加速し、国民と企業に再建と繁栄のツールを提供する力強い道筋だ」と述べた。

このデジタル決済の普及はシリア国内の経済活動を活発化させ、中小企業の参入を後押しするだけでなく、国外との取引や送金、商取引の再開にもつながると期待されている。

VISA側も地域および国際的なフィンテック企業との連携を通じ、シリア国内で新たな決済ソリューションを展開する意思を示している。

ただし、長年にわたって続いた内戦と制裁による経済的混乱からの回復には時間がかかる。決済システムの整備だけでは不十分であり、銀行の流動性、金融システムの信頼回復、物価やインフレの安定、外貨準備など、多くの構造的課題も残っている。そうした中で、今回のVISA参入は象徴的であり、シリアの再建に向けた第一歩と位置づけられている。

今後、VISAによるカード発行やウォレットサービスの開始時期、店舗や小売業での導入状況、国際送金や商取引の再開など、進展が注目される。また、並行してMastercardなど他決済事業者との協力や、金融包摂(ファイナンシャル・インクルージョン)の取り組みも進む可能性があり、シリアの経済社会復興の鍵を握る動きとみられている。

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