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シリア政府、米国の制裁解除を歓迎、国際金融市場に復帰へ

「シーザー法(Caesar Act)」はシリア内戦における人権侵害を理由に当時のアサド政権を標的とし、政府機関や金融システムを含む幅広い経済活動に対して厳しい制裁を科していたが、廃止が決まった。
2025年11月10日/米ワシントンDCホワイトハウス、トランプ大統領(左)とシリアのシャラア大統領(AP通信)

シリア政府は19日、米連邦議会が同国にする制裁を撤廃したことを歓迎すると表明した。2019年に導入されたいわゆる「シーザー法(Caesar Act)」はシリア内戦における人権侵害を理由に当時のアサド政権を標的とし、政府機関や金融システムを含む幅広い経済活動に対して厳しい制裁を科していたが、廃止が決まった。

シリアのシャラア暫定政権は声明で、制裁撤廃は国民の負担を軽減し、復興と安定に向けた新たな段階への道を開くものだと評価した。また、今回の決定がシリア人や外国の投資家にとって投資機会を探る契機になるとの見方を示し、復興事業への参加を促した。世界銀行はシリアの復興費用を2160億ドル(約34兆円)と見積もっている。

トランプ(Donald Trump)大統領はシーザー法の撤廃を防衛予算法案の一部として最終承認し、議会が可決した。この制裁撤廃には宗教的少数派の保護やテロ対策に関する進捗について定期的に米議会へ報告する義務が付されているものの、直接的な条件は設けられていない。シーザー法はシリア政府と取引する個人や企業にも制裁対象として影響を及ぼしていたが、これらの措置も撤廃された。

シリア中央銀行は制裁の撤廃により、国際金融システムへの再統合が可能になると強調。これにより、同国は主権信用格付けの取得も目指せるようになり、紛争終結後の国家としては低い評価から始まるものの、評価が改善されるための道標になるとの見方を示した。

この動きは同時に、シリア内外での政治・経済環境に影響を与えている。トルコ、サウジアラビア、カタールといった地域の主要国も制裁撤廃を歓迎し、国際協力を通じたシリア復興への期待を表明した。

トルコ外務省の報道官は声明で、今回の決定が安定と繁栄を強化する助けになるとの見解を示した。サウジ外務省はトランプ氏が果たした役割を高く評価した。

一方で、イギリスは同日、シリアでの民間人に対する暴力行為に関与したとして、個人や武装組織に対する新たな制裁を導入した。対象には旧アサド政権に関係する人物や、新政府の軍事部門と関連する武装勢力の構成員が含まれている。これらは今年シリア沿岸部で発生した宗派間暴力に起因するもので、多数の民間人が犠牲になった。

制裁撤廃によりシリア政府は国際市場への復帰を目指す一方、安全保障や人権状況に関する国際的な監視も引き続き焦点となる見通しである。

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