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カタール、安価な電力で湾岸地域のAI競争に本格参戦

湾岸地域ではすでにサウジやUAEがAIインフラ整備で先行しており、データセンター建設やAI企業への投資を進めている。
カタール、首都ドーハ市内(Getty Images)

カタールは豊富で安価な電力を活用して、湾岸地域における人工知能(AI)競争での遅れを取り戻そうとしている。地域のライバルであるサウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)に比べて出遅れた同国が、低コストの電力供給という利点を武器に、データセンターやAIインフラへの投資を加速させる方針だ。こうした動きは、エネルギー収入からの脱却を図る湾岸諸国の広範な経済多角化戦略の一環である。

カタールのAI戦略の中心となるのが新たに立ち上げられた国営のAI事業体「Qai(キューエーアイ)」であり、総資産約5260億ドル(約81.8兆円)のソブリン・ウェルス・ファンドと世界的投資会社ブルックフィールドとの共同で約200億ドル規模のベンチャーが組まれている。この取り組みはカタールにとって、AI分野への本格参入を目指す最大規模の動きとして注目されている。

湾岸地域ではすでにサウジやUAEがAIインフラ整備で先行しており、データセンター建設やAI企業への投資を進めている。こうした競争環境の中で、カタールはエネルギーコストの優位性を生かし、世界的なクラウドサービス企業やAI技術大手を誘致する構えだ。特にAIの計算処理には大量の電力が必要であり、電力コストがデータセンター運用費用に占める比率も高いことから、安価な電力供給は競争上の強みとなる。

しかし、専門家は低コスト電力だけでは競争力を確保するには不十分だと指摘する。AI分野で大きな役割を果たす「ハイパースケーラー」と呼ばれるクラウドプラットフォーム企業は、電力以外にもデータガバナンスの制度整備や高度な半導体の確保、優秀な人材の誘致といった要素を重視するためだ。特に先進的なAIチップの多くは米国の輸出管理の対象となっており、これらを入手・活用するためには米国との規制遵守体制が求められる。

データセンターのエネルギー効率指標を示すPUE(電力使用効率)については、中東地域は1.79と世界平均の1.56を上回っており、「冷却コスト」の高さが課題となっている。砂漠気候の下ではデータセンターの冷却に大量の電力が必要になるため、電力コストが安くても運用効率の改善は不可欠だとされる。

カタールのAIインフラはまだ初期段階にある。現在、同国内のデータセンター数は5カ所にとどまり、UAEの35カ所、サウジの20カ所と比べて規模が小さい。2030年までに容量を1.5〜2ギガワット級に拡大する可能性はあるものの、これを達成するには莫大な投資と長期的な政策の整合が必要とされる。

湾岸地域全体では今後2年間でAIデータセンター関連に約8000億ドル規模の投資が見込まれており、中東諸国はAI技術を経済成長の新たな柱と位置づけている。こうした中でカタールが安価な電力という強みをどこまで生かし、世界的なAI競争の中で存在感を示せるかが注目される。

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