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トルコ首都で野党デモ、数万人参加、捜査当局の弾圧に抗議

捜査当局は過去1年間、汚職捜査の一環としてイスタンブールやCHPが主導する自治体を中心に摘発を続け、17人の市長を含む500人以上を逮捕した。
2025年9月14日/トルコ、首都アンカラ、野党・共和人民党(CHP)の集会(AP通信)

トルコの首都アンカラで14日、野党・共和人民党(CHP)が政治集会を開き、捜査当局による取り締まりに抗議した。

現地メディアによると、会場には数万人が集まったという。デモ隊はエルドアン(Recep Tayyip Erdogan)大統領に辞任を要求したり、イスタンブールのイマモール(Ekrem Imamoglu)市長の解放を呼びかけた。

X(旧ツイッター)で共有された動画には群集が国旗を掲げてエルドアン氏に「引退」を勧告するシュプレヒコールを上げる様子が映っていた。

CHPのオゼル(Özgür Özel)党首は演説で、「政府与党は過去1年間の地方選挙で野党が勝利したことを受け、民主主義の規範を損ない、反対意見を抑圧することで権力にしがみつこうとしている」と非難した。

またオゼル氏は早期の総選挙実施を要求した。

捜査当局は過去1年間、汚職捜査の一環としてイスタンブールやCHPが主導する自治体を中心に摘発を続け、17人の市長を含む500人以上を逮捕した。

捜査当局がCHPに対する取り締まりを強化した背景には、エルドアン政権下で進行してきた権力集中と、政治的対立の激化が深く関わっている。CHPは1923年の建国以来の歴史を持ち、世俗主義と共和主義を掲げてきた党であり、長らくトルコ政治の中で与野党の交代を繰り返す中心的な存在だった。しかし2002年以降、与党・公正発展党(AKP)が長期政権を維持する中で、CHPは体制への最大の対抗勢力として位置付けられてきた。そのため政権は、党勢の拡大や社会的支持の増大を脅威と捉え、司法・警察機構を動員して牽制する姿勢を強めてきた。

この動きが加速したのは、2016年のクーデター未遂以降である。エルドアン政権はクーデターを契機に非常事態を宣言し、軍や官僚機構における反政府勢力の一掃を掲げて大規模な粛清を実施した。その際、クーデターに関与したとされた「ギュレン派」だけでなく、クルド系野党や政府に批判的なリベラル勢力も広範に標的とされた。CHP自体はギュレン派と直接的な結びつきは弱かったが、政府は「テロ組織支援」「国家の安定を脅かす行為」といったレッテルを用い、反体制的言動を弾圧する口実を作り出した。以後、検察当局や警察によるCHP関係者への調査、起訴、家宅捜索が徐々に増えていった。

特に地方選挙でCHPが成果を上げ始めた2019年以降、取り締まりは目に見えて厳しくなった。イスタンブールやアンカラといった大都市でCHP候補が勝利したことは、エルドアン政権にとって大きな打撃だった。都市部の中産階級や若者の間で世俗主義・民主主義の価値を重視する動きが強まり、与党の支持基盤である保守層との分断が鮮明になった。政府はこの流れを抑えるため、地方自治体での汚職疑惑や公金不正使用といった名目でCHP系市長や議員を標的にした捜査を進めた。これらの調査はしばしば証拠が不十分であると批判され、政治的動機が強いと見なされている。

さらに2023年の大統領選挙と議会選挙に向けて、CHPが国民連合として他の野党と共闘を進めたことも、当局の警戒を強める要因となった。エルドアン体制の長期化に対する不満が蓄積し、野党共闘によって政権交代の可能性が現実味を帯びる中、与党は選挙戦を有利に進めるため、司法を使った圧力を強化した。例えば、CHPの指導部や有力政治家に対する捜査、司法上の脅し、発言の一部を「テロ宣伝」として起訴する動きが頻発した。こうした捜査は、党活動を萎縮させ、国民に「CHPは危険な存在」という印象を与える狙いがあるとみられる。

メディア環境も当局の戦略の一部となっている。与党寄りの報道機関はCHP関係者に関する疑惑や捜査を大々的に取り上げ、政権の主張を正当化する役割を担った。他方で野党寄りのメディアは閉鎖や圧力を受け、情報発信力を削がれた。結果として、国民に伝わる情報は政府の描くフレームに大きく傾き、司法手続きの正当性が疑われても広く議論されにくい状況が作り出された。

こうした流れの背景には、エルドアン政権が権力基盤を維持するために制度的な制御を徹底してきたことがある。司法の独立性は大きく損なわれ、憲法裁判所や高等司法評議会の人事は政権に従属する方向で再編された。警察や治安機関も同様に与党の意向に沿って動き、野党取り締まりの実働部隊となった。つまり、CHPに対する捜査強化は単なる一時的現象ではなく、エルドアン体制の統治モデルそのものに組み込まれている。

総じて言えば、トルコ当局によるCHPへの取り締まり強化は、反体制的勢力を広範に抑え込み、選挙での優位を確保するための政権戦略の一環として進められてきた。2016年のクーデター未遂以降の非常事態体制、2019年の地方選挙での野党勝利、2023年の政権交代をめぐる攻防といった局面ごとに、その強度は高まり、司法と治安機構の政治的利用が常態化した。CHPは歴史的にトルコ共和国の建国理念を体現してきた政党であり、その存在を狭めようとする動きは、国内の民主主義の健全性そのものを揺るがしていると言える。

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