イスラエル軍ラジオ局閉鎖へ、政府が閣議決定、市民反発
ガレイ・ツァハルはイスラエル建国初期に創設され、当初は軍人とその家族向けの情報提供を目的としていた。
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イスラエル政府は22日、長年国民に親しまれてきた軍放送ラジオ局「Army Radio(ガレイ・ツァハル)」の閉鎖を進める方針を閣議決定した。
カッツ(Israel Katz)国防相が提案したこの計画は来年3月1日までに同局の放送を停止することを目指しており、与党内の強硬派を中心に進められている。軍放送をめぐる今回の動きは言論の自由や民主主義への影響を懸念する声を国内外で引き起こしている。
ガレイ・ツァハルはイスラエル建国初期に創設され、当初は軍人とその家族向けの情報提供を目的としていた。しかし長年にわたり、一般市民向けのニュースや社会・政治問題の解説、批判的な報道を行う放送局として広く受け入れられてきた。現在では、国の2つの国家資金による独立放送の一つとして、テレビ・ラジオ・デジタルで多様な番組を提供する公共放送KANと並ぶ存在となっている。
カッツ氏は声明で、「ガレイ・ツァハルはもはや軍の非政治的性格を保っておらず、兵士や軍への批判的な見解を広く流布している」と主張。軍放送が民主主義国家として異例であり、軍と一般市民向け放送の両立に矛盾があると述べた。またネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相も閣議で「このような軍運営の放送局は北朝鮮のような国にしか存在しない」と述べ、閉鎖を正当化した。
一方で、この決定には強い批判も出ている。報道の自由を擁護する団体や専門家らは、独立したメディアを排除する動きだとして反発している。 イスラエル記者同盟は、「政府は批判を恐れて従順なメディアだけを求めている」と非難しており、多くのジャーナリストや市民がこの措置は言論の自由への重大な打撃だと受け止めている。
さらに、イスラエル民主主義研究所などのシンクタンクは国家資金で運営される独立性のある公共放送を政府の一存で閉鎖すること自体が法の支配の原則に反すると指摘。同局の閉鎖には国会(クネセト)による立法措置が必要であり、閣議決定で進めるべきではないとの見解を示している。また、複数の市民団体や監視組織が最高裁判所にこの決定の差し止めを求める訴えを提出する準備を進めているという報道もある。
今回の計画はイスラエルで進むメディア規制や言論統制に対する懸念と重なり、国際的にも注目されている。特に近年、政府は国家安全保障を理由に一部のメディア機関への制限を強化しており、カタールの衛星テレビ局アルジャジーラの禁止措置などが批判を招いている。こうした一連の動きは国内の民主主義制度の後退を懸念する声を一段と強めている。
政府は「軍放送の閉鎖は軍の士気を高め、非政治性を保つための必要な措置」と説明しているが、市民社会側はこれを自由な報道への侵害とみなして対抗している。今後、最高裁での判断や国会での論戦がどのような影響を与えるかが焦点となる。
