SHARE:

イスラエル政府が23年10月7日のハマス奇襲調査を推進、遺族は正義求める

政府与党は内閣と国会議員が調査委員会の構成や任務を決定できる枠組みを定める法案を支持し、独立した国家委員会による調査を求める遺族や野党から強い反発を受けている。
2023年10月7日/パレスチナ・ガザ地区、イスラエル軍のミサイル攻撃(ロイター通信)

イスラエル議会(一院制、定数120)は24日、2023年10月7日に発生したイスラム組織ハマスによる奇襲攻撃の調査をめぐる法案を予備可決した。政府与党は内閣と国会議員が調査委員会の構成や任務を決定できる枠組みを定める法案を支持し、独立した国家委員会による調査を求める遺族や野党から強い反発を受けている。今回の動きは同国最大級の国防の失敗を巡る真相究明をめぐる政治的対立の激化を象徴している。

この法案は国会が調査パネルのメンバーを選び、政府が委員会の調査範囲を設定する権限を与える内容で、与党側はこれによって幅広い代表性と信頼性のある調査が可能になると主張している。ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は政治家が関与する今回の仕組みの下でも独立性の高い調査が行われ、国民の信頼を得られると強調している。

しかし、批判は根強い。野党や遺族らは今回の法案が1968年制定の「調査委員会法」を迂回するものだと主張する。同法は重大な国家的失敗については最高裁判所長官が委員を任命する独立した国家委員会を設置すべきとしているが、政府主導の仕組みでは真相究明が政治的に歪められる恐れがあると批判している。野党のラピド(Yair Lapid)前首相はネタニヤフ案を「政治的な防御策」と断じ、協力を拒否する姿勢を示している。

公正な調査を求める声は国民にも広がっている。世論調査では、過去数十年で最大規模のセキュリティーの失敗を解明するために、独立した委員会を設置することへの支持が多数を占めているという。10月7日の攻撃ではイスラエル南部で約1200人が死亡、多数が拉致される事態となり、これが2年にわたるガザ紛争につながった。多くの遺族は透明性のある調査こそが将来の惨事を防ぎ、責任を追及する唯一の手段だとしている。

遺族の一人は議会で「これは国全体にとっての災害の日だ」と述べ、「正義は成されなければならない」と訴えた。また、ハマスに拉致された息子が遺体が発見された別の遺族は「信頼できる委員会のみが国家の安全を回復し、国民を一つにできる」と語った。

一方、政府案を支持する議員は与党と野党双方の代表を含めることで、社会全体の意見を反映できると主張する。法案には戦死者や被害者遺族から選ばれた4人の代表が聴聞に出席し、証言者や質問内容を提案できる権限を持つ規定も含まれている。ただし、反対派はこうした措置でも十分な独立性が担保されないと批判している。

この法案は予備可決段階にあり、最終的な成立にはさらに議会での採決が必要だ。与党は次の段階でも多数を確保しており、年明けにも調査委員会設置に向けた動きが本格化する見通しだ。一方で、独立した国家委員会設置を求める遺族や市民団体の抗議は続いており、イスラエル国内での論争は当面収束しそうにない。

この記事が気に入ったら
フォローしよう
最新情報をお届けします